たく

マ・レイニーのブラックボトムのたくのレビュー・感想・評価

3.7
「ブルースの母」と称された大物黒人歌手の1日のレコーディング風景を描いたNetflixオリジナル作品。狭い空間で繰り広げられる舞台劇っぽい会話の応酬とダイナミックに動き回るカメラ、そしてクソ暑い中でも人前ではフェイクファーを絶対脱がないマ・レイニーの脂ぎった風貌が濃密過ぎた。

1927年のシカゴで、南部出身のマ・レイニーがいかに大物歌手とはいえ地元住民から奇異の目で見られる冒頭から不穏な空気が漂う。いっぽう新しい音楽に理想を抱くトランペット奏者レヴィの閉塞感が狭いリハーサル室の開かずの扉に象徴されてて、古いバンドメンバーを含むマ・レイニー側とレヴィとの音楽上の価値観対立が軸となっていく。
大物らしく思い切りわがままに振る舞うマ・レイニーが、実は商業目的で白人に利用されてるだけと自覚してるところとか、レヴィが語る幼少期の昔話に当時の黒人が置かれてた過酷な状況が伝わる。レヴィが信心深いカトラーに対して神への絶望を叫ぶくだりはちょっと「シークレット・サンシャイン」を連想した。

本作が遺作となる「ブラック・パンサー」のチャドウィック・ボーズマンの吹っ切れた迫力が凄かったね。癌を最後まで隠して撮影したそうだけど、それを知って観るとやつれた感じが画面から伝わってきて痛々しかった。

演奏開始のタイミング出しに「ワン・ツー・スリー」じゃなく"You know what to do?"って囁きかけるように言うのが妙に耳に残ったのと、黒人同士でも「ニガー」って差別用語を言い合っちゃうのが印象的。レヴィが終始論争するトレドとの結末には目が点になったね。
たく

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