唯

くれなずめの唯のレビュー・感想・評価

くれなずめ(2021年製作の映画)
4.0
劇団ゴジゲン主宰の松井大悟が監督・脚本を務め、ゴジゲンの同名舞台作品の映画化とあって、演劇らしい創り方の映画作品。

例えば、ノイズの多さ。

演劇では映像程に場面転換を容易に出来ないため、会話の妙や空気の緊張と弛緩を提示して、そこに流れる空気を共に共有するという傾向が強い様に思う(もちろん、舞台装置や派手な演出で魅せる作品も多くあるが)。
故に、役者は方々でそれぞれに喋っており、脚本に書かれているのかいないのか、といった、台詞とも判別しにくい雑音が多く混ざる。
それこそが実際の日常会話のリアルであり、平田オリザが提唱した現代口語演劇や同時多発演劇と通ずる形式のものである。

彼らの繰り出す会話は脈絡がないかと思いきや、ちゃんと、彼らだけの文脈と共通言語を持っている(まあ、脈絡はないか)。
その、身内ネタ満載のわちゃわちゃ感なるものが、この6人の関係性にぴたっとはまって功を奏しているのだ。
学生時代からのノリと勢いで、内容のない会話を延々と繰り広げる彼らだが、ちょっとした地雷で気不味さが駆け抜ける瞬間など、その空気の変化を上手く生成していて、こちらまでそれに合わせて呼吸をしてしまう。

私の経験上、結婚式の余興というイベントは、何かしらの不和や諍いを生みがちだが、そもそも、一緒に余興を出来るって、バカ野郎って言い合えるって、そんな友達滅多に出来なくて。
だから、すんげーーー大事なんだよな、と。
そして、それは大抵の場合、学生時代からの友人としか築けない関係性ではなかろうか。そうに違いない。
互いをネタにして笑い合えるなんて、昔からの愛情深い友達としか出来っこないもんなあ。

思春期を共に過ごした仲間であるけども、あの頃のことを思い出すと、どうでも良いことやしょうもないことばかり覚えていて。
そして、いくつになっても、あの時の仲間が集まれば、瞬時に学生時代のあの頃に引き戻される。
吉尾が死んだからとかそういうことじゃなく、ああやっていつまでも一緒にバカなことを出来るということが、眩ゆくて、しょうもなくて、泣けてくる。

そんな彼らも、歳を取るにつれて、生きることが切実な目的になってしまう。
それでも、言葉とは裏腹に互いに想い合っていたり、夢を応援し合っていたりする。

それにしても、若手俳優6人のカラ元気な芝居が最高だったし(涙を必死に堪えるけども溢れちゃってる様など)、脇を固める役者陣のキャスティングのふざけ具合も好感が持てた。

松井作品は初鑑賞だったけども、一言一言がいちいち笑えて仕方がない。
彼ら本人は至って真面目なのに、その真面目ささえ面白い。
私達の何でもない日常って、実はめっちゃ滑稽で愚かで笑えるものなのかもしれない。

文化祭のコントをメタファーとして挿入し、自分達の創った物語に救われるというプチ入れ子構造なども、演劇らしい仕掛けであった。

「死んでても死んでなくても変わんねえから」というミキエの一言に、松井監督の最も伝えたかったメッセージが集約されている様に感じた。
遺された者達の物語、でした。
唯