シュローダー

BLUE/ブルーのシュローダーのレビュー・感想・評価

BLUE/ブルー(2021年製作の映画)
4.5
Fan's voice試写にて。人生というリングに立つ全ての「万年青コーナー」の人間たちに捧げる、苦くも美しい人生讃歌を味わった。吉田恵輔は常に観客である我々を生半可な気持ちにはさせないハードコアな映画を観せてくれるが、今回もそうだ。松山ケンイチ演じる主人公の瓜田は、ボクシング映画の主役の癖に、試合に全然勝てない。試合に全然勝てない。だから周りの人間にもバカにされるし、木村文乃演じる初恋の人、千佳は東出昌大がいつも通りのクソ野郎ぶりで演じる非凡な後輩、小川に取られてしまう。そんなどん詰まりの状況にも関わらず、瓜田は飄々とした態度を崩さず、周りの人間に対しても愛想良く接している。だが、彼の心の奥底には、拭いきれない悔しさと、抑えきれないボクシングが好きな気持ちがある。RHYMESTER「ザ・グレートアマチュアリズム」の歌詞を引用するならば「持ってる奴に持ってない奴がたまには勝つと思ってたい奴」である瓜田。そんな彼の想いは、劇中で何度も何度も映し出される彼のシャドーボクシングをする美しい後ろ姿によって、これ以上なく簡潔かつ適切に描写される。対する小川も、パンチドランカーを背負いながらも、「セッション」に於けるマイルズテラー演じる主人公の如く、やはりボクシングへの執念を半ば狂気的なレベルで捨てきれない。そんな彼らを外側から見ることしか儚げな顔で出来ない千佳。この三角関係は監督によると「あだち充がやりたかった」との事。成る程この映画には確かに「タッチ」と非常に近いエッセンスが流れているなぁと思った。勿論これは吉田恵輔の映画なので、吉田恵輔作品ならではの観客の度肝を抜くケレン味溢れる演出は今回も健在。監督自身が殺陣をつけたボクシングシーンの迫力は勿論凄い。柄本時生のキャラクターが体現する思わず笑ってしまうユーモアセンスや、中盤になって「あ!そういう事か!」となる時系列操作や、一瞬のフラッシュバックをクロスカウンターの様に決めて見せる編集の妙もやはり素晴らしい。何よりも良いのはラスト。109分とはとても思えない濃密な物語な果てに待ち受ける確かな開放感。爽やかな余韻。そこに刻まれた生き様。どれもが愛おしく思える。音楽の使い方が凡庸な事以外は文句無しの映画でした。僕は松山ケンイチになら抱かれても良いですね。