えいがうるふ

モーリタニアン 黒塗りの記録のえいがうるふのレビュー・感想・評価

4.0
9.11の惨劇の首謀者や実行犯は決して許されない。しかし、その膨れ上がった怒りと悲しみと憎しみを本当はどこにぶつけるべきなのか、そもそもの原因はなんだったのか、もっともらしく語られている話が必ずしも真実とは限らないことを私達はもうよく知っている。それでも傷ついた人々は理由を求め、責任を追求すべき相手を必要とした。突然理由もなく拘束され、いわば大国の大義のスケープゴートにされた弱者のぶつけようのない怒りと憎しみに光を当てた意義ある作品。

グアンタナモ収容所の中での拷問による自白強要については噂レベルでしか認識していなかったが、こうして映像化されると嫌でもその鬼畜ぶりがリアルに伝わる。
知る由もないその実情が果たして映画の演出通りだったのか、或いはそれ以上なのか・・と想像してしまい、背筋が凍る思いがした。

理不尽に人権を踏みにじられる主人公をひたすら見守り続けるしかないこの辛く恐ろしい話が、私の知らない世界の現実なのかと思うと終始眉間にシワを寄せたまま鑑賞してしまったが、ラストに登場したご本人の想像以上に明るく屈託ない笑顔が、そんな私のこわばった額と冷え切った心をあたためてくれた。ありがたい。
あれほどの目にあってもちゃんとその後の人生を投げることなく笑いを取り戻し逞しく生きているモハメドゥ氏の強さと、この作品の映画化に携わった全ての人々の勇気に心が救われる思いがした。