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竜とそばかすの姫のHrtのレビュー・感想・評価

竜とそばかすの姫(2021年製作の映画)
3.8
電脳空間描写!!細田守だ!!と細田作品苦手にも関わらず飛びついて公開2日目に鑑賞。
『サマーウォーズ』よりもずっと前、『デジモンアドベンチャー』を脳裏によぎり、中村佳穂が主演声優&歌を務めるということでもう自分としては観たい欲望に抗うすべが無かった。
約10年スパンでオンラインの世界を描いている細田監督。周期的に訪れる作品たちは、それだけ空間的にドラスティックな変化を遂げその度に監督が描く義務感を持ち合わせていることの証明だろう。
オンラインがリテラシー強者のユートピアだった時代などとうの昔に終わりを告げ、今やオンオフ関係なく具合が良い世界などどこにも無い。
広告だ。細田作品には今まで前面に出てくることの無かった(もしあったらすみません)広告が全てを物語っている。
マーケティングとか言った訳知り顔のクソ野郎が幅をきかせる窮屈な時代だとこの作品は伝えてくる。
ラディカルな正義を振りかざす大人(だろう多分)。
本作は主人公が仮想、現実の両方で彼らに立ち向かう話でもある。
しかもそれが自分のためじゃなく、何処かにいる誰かのための行動で。
クライマックス、Uで誰かのことを思って歌う彼女はその時に初めて彼女の母親があの日取った行動の意味を心から理解する。
絶対に分かり合えないことを描きつつ、真に分かり合えることの尊さもこの作品からは感じる。
仮想が現実になることは終ぞ無いがしかし、現実を踏み出すある一点においてオンラインがもたらす磁場は確実に存在している。

音楽が終始良く中でもオーケストレーションの素晴らしさには耳を奪われた。
特に明らかな『美女と野獣』モチーフが表出したシーンの音楽には圧倒されてしまった。
この辺りは米津玄師とも制作している板東祐大の仕事がめちゃくちゃ光っている。
仮想(ここにもいくつか階層がある)と現実であれだけ世界が違うので劇伴制作を3人に分担させた采配も功を奏していたと思う。
そして何よりも映像の凄さが一番際立っていた。
3DCGの圧倒的な緻密さ、しかもそれを寄り画ではなく引き画で見せるカットが贅沢すぎる。
Asの一つ一つを描くだけでも気が遠くなるほど膨大な作業だろう、ただ眺めているだけの自分ですら目眩がしそうだった。
何一つ偶然映るものがないアニメーション作品でのこうした構築力は最も尊敬すべき点だ。
こうした映像のクオリティをもっても細田作品は苦手としていたのだが、本作には押し付けがましさを感じずに観れた。
そしてそれはおそらく細田監督自身による意図的なもののように思う。
監督の作家的な意欲次第ではまた次作で苦手に戻る可能性は捨てきれないが本作には容易にのめり込めた。
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