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スペンサー ダイアナの決意のchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

4.0
結婚生活はホラー映画?クリステン・スチュワートの熱演が言うまでもないのはもちろん、暗示的で巧みな演出もにくい。「結婚は生きていくために必要な選択」は流行語に入りませんでしたが、この映画はずばり「離婚は生きていくために必要な選択」です。ダイアナ妃に起こった悲劇を知っている我々からすると、王室がもう少ししっかりしていれば彼女はそのまま留まり悲劇は起こらなかっただろうにと思ってしまいます。でも、この映画を観るともうそんな考えはすっかりなくなりました。

王室一家はロンドンを離れサンドリンガム・ハウスでクリスマス休暇を過ごします。冒頭、何を思ったか自分で運転してそこへ向かうダイアナ妃。まあ道に迷って"I'm lost..." 窮屈な生活に苦しむも周囲に理解されずすっかり生きる道を見失ってしまった彼女の目的地は、奇しくも自由に大地を駆けまわった少女時代のゆかりの地。

ダイアナ妃は王室の縛られた環境で生きていくべき女性ではない。この一点のみに焦点を絞り込んでいます。ホラー映画じゃないのにとにかく最初から徹底したホラー演出。不気味な音楽に鳥の死体、彼女の部屋には処刑された王妃についての本が何者かによって置かれています。そのホラーの世界観はどんどんエスカレートしていき、何とかそこから脱出しようと心を許せる衣装係のマギーや子供たちに救いを求めた彼女がたどり着いた境地は...

この映画はダイアナ妃が離婚を決意するクリスマス休暇の数日間を描いた作品と常套句のように紹介されるものの、直接的には離婚に言及していません。ですが終盤にはっきりと、彼女の決意、映画のタイトル、そしてこの映画全体を通して提示されてきたものの意味が、パズルのピースが一気に揃っていくかのように理解される仕掛けになっています。うーん、これはうまいなあと唸ってしまいました。

ケンタッキーのエピソードは実話?映画ではウィリアム王子は母親に向かって"You are being really silly. Please mummy, you have to sit down before Granny." と発言、彼は弟ヘンリー王子と異なり王室側の価値観に沿った人物として描かれています。この兄弟の描かれ方の違いは確かにその後の彼らの生き方に実際よく反映されています。

がですな、約1年前ウィリアム王子はケンタッキーの店内を外からじーっと覗き込んでいるところをパパラッチされて話題になりました。この時彼は一体どんな思いで店内を見つめていたのだろうかと想像すると胸が締め付けられます。ヘンリー王子のここ最近の振る舞いはこの映画を観ればすごく自然なことに思える。逆にそうではないウィリアム王子は精神的に大丈夫なんだろうか?パパラッチ写真でのKFC店内への食い入るような目線は無理して蓋をしている自分の本当の心を覗いてしまったようにもみえる。グリーンブックでの幸せなケンタッキーのイメージが切ないものにバッサリ書き換えられました。

ダイアナ妃の周囲の人物像や彼女に起こった出来事についてはほぼ何も描かれないので軽く調べて彼女の心の内を推察するのも一つのやり方ですが、逆にこの映画はそういった具体的な事実は全く重要視しておらず何も知識がなくても映画としてしっかり味わえるようになっていますのでご心配なく。
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