Habby中野

漁港の肉子ちゃんのHabby中野のネタバレレビュー・内容・結末

漁港の肉子ちゃん(2021年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

「雪だ」の台詞でカメラは雪じゃなく、病室に飾られた花のアップに行き、そこから美しい雪へとゆっくりと変わっていくというのは何かしらの真実なのではないかと心から感動した。
終始おバカな肉子に愛想も尽きはじめたころに、ただ「いるだけでいい」という台詞が流れて少し泣く。これは嬉し涙で本来あるべきはずなのに、この時は情けなさが勝っていたと思う。我々は生まれてきたことやこれまでやってきたこと─或いはやってこなかったことを悔やみ、恥じて、そのくせ棚に上げて他人を憎んだり恨んだり羨んだり蔑んだり貶したりする。我々は(これは主語がデカすぎる)肉子の”おバカ”が行き過ぎていることにだんだん気づき、少しイライラし、少し馬鹿にしたりするかもしれない。だが、それは愚かなことだ。人は「いるだけでいい」から。これは絶対。いることの過去に対して、未来に対して、いろいろと、いろいろとなんて言ってられないほどの禍々しいものがあるけれども、とにかくいまここにいるということだけはこうして許されているのだ。そうでなければここにいることなんてできるはずがないのだから。だから、「いるだけでいい」とこの映画が言い得た瞬間、ぼくは確かに自らを鑑みた。
作品自体は視野が狭く、質感でしか時間描写がなされていなくて薄く、あまり何も映っていないと感じだが、まあでもこの映画があってよかったなと思えた。
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