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ボーはおそれているのYMのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
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トゥルーマン・ショー 無情悲劇地獄版

従来の作風とはまた違ってかなりポップ?というか、陰気なりにコメディ色が濃い目に仕上がっていたように思う。トイレ離席をおそれまくって水分取るの怯えた長尺ではあるもののテンポはよく飽きずに観られた。
冒頭胎児目線の誕生日シーンと、演劇とアニメを組み合わせた部分の演出が好みだった。

男根として妊娠させる機能のみで存在が希薄な父と、孤独とストレスで壊れ、子に怯えられるがゆえに本来の気質もそうなのであろう強権を強固にする母親と、意思を奪われますます臆病になり壊れる息子。

「愛情」というのは名ばかりの栄養過多デブドリンクを死なないために一度受け入れたばかりに、意思や健康状態は無視して注ぎ込まれる、さながらフォアグラとして育てられる鳥のように。すっかり損なわれた健康な心身。小屋の外へ逃げねばと思った時にはもう遅く、与えられる餌なしで生きること自体への怯え、あまりにも深い外界との溝と未知への恐怖に足がすくむ。
「愛を受け入れた」自分、仮にも「愛情」という餌をくれて殺さないでくれた相手への罪悪感にがんじがらめにされ、動けぬままに、必死の叫びも孤立し切った人生ではどこにも届くことなく沈んでいく。
殺さないのも殺されないのも当然のことであるべきなのにね。

ボーの生き様は自ら選ぶことを悪とされ、糾弾され続け臆病が加速した結果ではあるが、大人にならず「子どものまま」いることを「選んで」いるのも自身が否定できないからつらい。逃げられない自分から逃げられない、悪夢のようだが現実。

この、機能不全家族で起きがちな悲しくつらい現象を、リアルさを失うことなく超現実的な劇的スリラーや、ホラー作品にできるところがアリアスターは本当にすごいと思う。
生きれば生きるほど追い込まれるボーを演じたホアキンフェニックスもとんでもない。あれ演技なんだもんなあ……演技ってなんなんすかね……教えてほしい

同じ悲劇でも、オイディプスやエレクトラのように分かりやすくはいかないね現代は……

他人がたくさん家に入ってきてぐちゃぐちゃにされるの自分のよく見る悪夢とそっくりで、うわ!最悪!という気持ち。
3時間、はじめから終わりまで嫌なことしか起こらない、予想する大抵の嫌なことが起こりまくるというか、予想する大抵の希望を根こそぎ刈り取っていく。救いはない。
虐待やモラハラ被害者、この言葉嫌いだが「毒親」被害者は結構きつい場面あるかも。

もう少し短ければ もう一度観るか〜と思えるくらい不快ながらも結構好きだったんだけど、180分はかなり覚悟いる……でももう一回観たくもある。ミッドサマーより好き。だけどヘレディタリーに軍配。やっぱりアリアスター好き。そんな感じ。
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