本作の公式サイトに掲載されていたプロモーションビデオの編集が怖すぎて、劇場で180分耐えられるわけない!!と思っていたが、映画自体は怖いというより気が狂いそうであった。
鑑賞後の疲労感が物凄い。
主人公ボーは、母が怪死したとの報せを受けるが、立て続けに不可解なトラブルに巻き込まれ、なかなか家にたどり着けない。
あらすじだけ見ればドタバタコメディだし、実際笑える部分もあった。
予告にも出る「怪死」というワードで、さぞかしおどろおどろしいカットがあるのだろうと構えていたが、その言葉自体は本作にとってさほど重要ではない。
「怪死」うんぬんの前に、ボーの住む街はゴッサムシティもびっくりの治安の悪さだし、セラピストから怪しすぎる薬を処方されているし、彼の日常そのものがフィクショナルで不安定であることが冒頭から示される。
確かに母親のヒステリーは恐ろしいが、全てはそれに影響を受けた息子の脆く歪んだ精神が見せる幻視である、と言われれば納得がいく。
「母親の怪死」以前に、「母親に会いに行かねばならない」というプレッシャーで、初めからボーの精神は尋常でなくなっているように見えた。
そのような母親への妄信的な依存、そして父親の不在というテーマは、明らかにキリスト教の皮肉な表象だろう。
ホアキン・フェニックスの意志薄弱な中年演技は見事だったが、マザコンという文脈で言えば前作で演じたナポレオンと通ずるところがある。
それにしてもこんなに声高かったっけ?と何度か思った。
母親の豪邸は、アリ・アスターお得意の、真横から部屋の構造が見渡せるドールハウスのような設計で面白かった。
またエンドロールで、アニメーション製作:レオン&コシーニャという表記を見つけてふふっとなった。