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茜色に焼かれるのmoobyooのレビュー・感想・評価

茜色に焼かれる(2021年製作の映画)
4.9
文字通り渾身の演技を魅せる尾野真知子の間違いなく代表作であり、類い稀なる圧倒的主演映画です。

冒頭の池袋暴走事故殺人事件を明らかに模した不条理な格差問題の提議を足掛かりに、尾野真知子演じる被害者の妻田中良子が辿るコロナ禍と併走する社会の闇を次から次へと炙り出して行きます。しかし、そのダークさとは裏腹に良子が持ち合わせる屈託の無さに常に観客は救われつつも、結局どうなるんだろうと云うドギマギした感覚も同時に味あわらされ続けます。

風俗でも働かざるを得ない女性達や、彼女達に関わる事実上社会からあぶれてしまう人々と、平穏に暮らす一般人との対比から浮かび上がる、本当に恐ろしい人間は、どちらの世界に多いのかと云う問い掛けは、現代日本のヤバさを如実に物語り、観る者の心をザワツカセます。

『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』あたりから更に色濃く成り出した石井裕也監督の社会批判を暗黒面重視で描いた前作『生きちゃった』は極度に居心地が悪い作品だったけれど、本作は適度なユーモアを混じえた作風に救いがありながらも、タイムリーに展開される事柄はかなり辛辣と云う事実こそ本作の要なのだと思います。
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