えいがうるふ

ブラックボックス:音声分析捜査のえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

欧州制作のサスペンススリラーはアプローチや画作りにハリウッドのように分かりやすい「型」がないので、序盤はとっつきにくく感じることもあるが、ハマると実に愉しい。この作品は最初からすんなり入り込めてとても面白かった。

主人公マチューの人物像がいい。
仕事熱心と言うより偏執的にも見えるその並外れた聴覚と知識と経験に裏打ちされたプライド。そして己の信じるところを決して曲げられず保身や身内への忖度すら出来ないあたりに(結局それが事態を救うのだが)、おそらく彼の職能は何らかの発達障害ゆえの聴覚過敏のなせる技なのかも、と思わせる。
こういったどこか変態、もとい偏ったキャラクターが大好きな私はすぐにこのとっつきにくそうな主人公に好感を持ち、物語にそのまま引き込まれた。

なにより脚本が素晴らしい。
一見ドロドロの利権争い&汚職の話かと思いきや、実はもっと深いテーマを内包している。音声分析というそれこそ最先端の技術を駆使する現場から、AIによるコントロールに完全依存するリスクを訴えるという逆説的な展開が胸熱。

便利な高度情報化社会が常に抱えるアイロニーを鋭く描き出す一方で、クールな仕事人間が内に秘めているヒューマンな情熱もしっかり垣間見せてくれる。
誰よりも仕事にプライドを持って生きてきたマチューだけに、ポロックからのラストメッセージはどれほど胸に響いたことだろうか。

そして終盤、主人公の耳から流れる一筋の血。
彼はそのシーン以降画面からは消えてしまうが、ノエミが足早に歩き去るラストシーンで、無言の彼女の表情が全てを物語るのが切なくも粋。

惜しむらくは、悪役に魅力が無い。分かりやすくチャラい人物像で登場した瞬間から胡散臭い。残念。

映画館で観たけれど、再鑑賞の機会があれば是非高性能なヘッドホンを用意し何度でも聴き直しが出来る環境でじっくり彼らの職人技を確認したいところ。