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ブラックボックス:音声分析捜査のtanayukiのレビュー・感想・評価

4.6
BEA(航空事故調査局)の音声分析官が音だけを頼りに事件?事故?の真相に迫るサスペンス劇。と聞くと、室内だけで話が展開する低予算のワンシチュエーションムービーを思い浮かべがちだけど、そんなことは全然なくて、むしろ航空業界や事故調査の現場をリアルに体感できる良作だった。それもそのはず、本作にはフランスBEAが全面協力して、映画に出てくる一部の施設は本物だそうで、ブラックボックスの「開封の儀」の模様など、ほかでは見ることができない臨場感あふれるシーンも多い。

だが、本作を傑作たらしめているのは、主人公の音声分析官マチューの人物造形の見事さだ。観客は当初、マチューの正義感に肩入れして、航空業界の闇と対峙することになるが、しだいに本当にマチューを信じていいのかどうか、疑心暗鬼に陥ってくる。姿を消した調査主任のポロックがそもそもめちゃくちゃあやしいし、ボイスレコーダーにも改ざんされたとしか思えない点が出てくるし、自動操縦システムを推進するセキュリティ会社の社長のグザヴィエもあやしいし、航空機の認証機関に勤める妻のノエミも航空会社に買収されているように見えてくるし……。だが、いちばんあやしいのはもしかしたらマチュー本人かもしれなくて……。ここで、ヤン・ゴズラン監督の声を聞いてみよう。

「何かに強い執着をもつ人物を登場させたいと思いました。これは、記録された音声の微細な部分まで聴き取るという、調査官の職業に必要とされる資質だからです。ただ、マチューはディテールにこだわり過ぎるあまり、全体を見失ってしまうような人物です。観客は主人公と一体化して事件の真相を追ううちに、マチューという人物を疑い始めるのです」

「どこか欠落のある人物にしたかった。一日中、集中して音声を聴くのが仕事ですから、自分の殻に閉じこもったオタクのイメージがリアルに見えると思ったんです。実際に会った調査官たちに彼のような人はいませんでしたよ(笑)。みなさん、とても真面目で厳格でした。マチューのように、CVRの音声をBEAの外で聴くなんてことは、現実には起こり得ません。だからこそ、彼のように完全に一線を越えてしまう人物を描き出すことに興味があったのです」
空気は読めないが耳は超敏感 異色の主人公が謎に挑むフランス発のサスペンス映画『ブラックボックス:音声分析捜査』
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/c030160/amp/

正義感はめっぽう強いが、細部にこだわりすぎるあまり、木を見て森を見ずになりがちなマチューのおかげで、最後までドキドキできる作品にしあがった。おすすめ。

△2023/04/30 U-NEXTレンタル鑑賞。スコア4.6
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