柏エシディシ

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎の柏エシディシのレビュー・感想・評価

⻤太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年製作の映画)
3.0
いまさら、鬼太郎オリジン?と訝しかりながらも、漏れ聞こえてくる好評判に劇場へ。
思わず、良かった。

正直、FIRST SLAM DUNK、スパイダーバース、TMNTなどの近年のアニメーション技術の革新を目の当たりにしてしまった今となっては、TVアニメレベルの作画と、まるでファスト視聴かダイジェストの様な(特に冒頭の)語り口の粗雑さには流石に厳しい部分は感じてしまった。
評判の良いアクションシークエンスに関しては、逆に、これだけ?、という印象を強くさせられ、日本アニメ界の想像以上の体力衰退を感じざるを得なかった。

しかし、それ以上に、なぜ鬼太郎という"ヒーロー"が特別なのか、なぜ、これだけ長く愛されているのか、そこに立ち返る物語には心動かされた。
戦争という人類史上の災禍と、その後の発展復興の名の元の欺瞞や矛盾を見つめ直す水木しげる先生の作家性に忠実な気骨のある物語だったと思う。
人間の欲望や過ちを正し、報われぬ魂を鎮める者としての、鬼太郎。
その誕生の物語。

子供の頃、小学館から出ていた入門百科シリーズを貪る様に読んで育ったものだから、エンドロールの鬼太郎誕生譚に繋げてくれたのはとても嬉しく。
そして同時に、ゲゲ郎(目玉の親父)が投げかける、今なお、今だからこそ心に留めなければいない言葉が刺さってくる。
世界ではまだ殺戮が続き、衰退と分断が続く社会。
今こそ鬼太郎の様なヒーローが求められ、学ばなければならない時代はないかもしれない。
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