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Firebird ファイアバードのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

Firebird ファイアバード(2021年製作の映画)
3.5
「ブロークバック・マウンテン」の旧ソ連軍バージョン。カウボーイ服より軍服に萌えるという方、どうぞご覧くださいませ(?)。ただし本作は実話です。「ブロークバック・マウンテン」と丸被りの場面と展開がたーくさん、でもパクリというよりはオマージュが感じられて好印象。禁断の恋を何のヒネリもなくフツーに描いていて目新しさは皆無ですが、ウクライナ出身ロシアで活躍していた相手役の俳優さんのことにも想いを馳せ心が痛みました件は後述します。

旧ソ連占領下のエストニアで従軍する若者セルゲイはロシアで俳優になるという密かな夢を持ち、残りほんの僅かとなった従軍終了を心待ちにしています。そこへちょっと年上のエリートパイロットのローマンが基地にやってきて二人は恋に落ち、モスクワで自由に生きたいセルゲイ、軍で出世街道を歩むローマンそれぞれの運命の歯車が狂い始めます...

タイトルの「火の鳥」は初デートでみたストラヴィンスキーのバレエに由来します。ってどんだけオシャレな初デートかよ。というのをはじめ、幸せそうな二人の姿がコテコテでドロドロに甘ったるいことこの上なし、相性抜群でした。近年のトレンド通り主演は実際のセクシャリティに合わせた配役がなされています。

主演の童顔で軍人というより寮生活中の高校生にしか見えないトム・プライアー。相手役のオレグ・ザゴロドニーはウクライナ出身。もともとロシアでの俳優業には苦労があったのが、皮肉なことに本作で有名になってしまいLGBTQ+に排他的な同国でさらに状況が厳しくなったとのことです。文化的には一見西洋諸国と大差ないように見えて別世界のおそロシア。が、その後のウクライナ侵攻でもうそんなことは彼にとって小さな悩みになってしまい...

プロデューサーも兼ねるトム・プライアーは、未だにロシアが性的マイノリティを激しく弾圧するのも、周辺の小国を攻撃するのも「社会に不満があるとそれを弱い立場の者をはけ口に発散しようとする」ロシア人の心の闇を反映したもので根は同じだと指摘しています。もちろんこの心理はロシアに限らず誰もが陥りやすく我々も注意しなくてはなりません。

ホントは類似の主題でオスカーの国際長編賞ショートリスト入りを果たしより評価が高い"Great Freedom"を観たかったのですがほぼ上映なく、対照的に本作が大々的に公開されたのはやはり英語作品だからでしょうか。みんな自由気まま具合なロシア風訛り英語は統一感ゼロ。というわけでしょうがねぇなって感じで期待値下げて観たら意外にいいではないかとなった映画でした。

予告編:https://youtu.be/D7XT9OWifHs
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