シュローダー

コーダ あいのうたのシュローダーのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
5.0
文句をつける所が一つたりとも見つからない、ウェルメイドを地で行く超絶大傑作。タイトルの「CODA(コーダ)」とは、「Children of Deaf Adults= “⽿の聴こえない両親に育てられた⼦ども”」のことであるが、勿論音楽用語における「最終楽章」とも掛けてある。題材やストーリーを踏まえると、いくらでも深刻な映画に出来ると思わされるが、この映画が凄いのは、基本的には物凄く笑えて楽しい映画である事。主人公のルビーちゃんの家族は、全員が割とどうしようもないレベルのダメ人間揃い。基本的に自分の家族以外との対話を拒み、切迫した経済状況を抱え、ルビーちゃんと本質的には「他者」として関わり、理解していない。「聾話である」というクッションを挟んではいるが、実際はどこの家庭でも起こりうる思春期の娘とのコミュニケーション不全を扱っているのが物語への没入を高めてくれる。中盤まではそれをくだらない下ネタを挟みながらユーモラスに語っていくのだが、クライマックスからラストにかけて、この映画は中々にハードな現実を提示すると同時に、それを乗り越える過程を通じてこちらの涙腺を破壊しにかかってくる。耳の聞こえない家族たちに、「歌」の素晴らしさをどうやって伝えるのか。自分が居ないと生活が出来るのか分からない家族に向かって、どんな歌を歌うのか。コンサートの場面での映画館で観ると思わず鳥肌が立つ「反転」の演出から、父へ歌を聞かせ、オーディションで「青春の光と影」を歌う一連の流れの無駄のなさは、音楽映画としても、家族映画としても、凄まじい感動を齎す。涙ボロボロだった。この映画を観て、手話ほど映画的な言語はないなと改めて思った。身振り手振りで表現する言語だからこそ、ラストのラストで「本当に愛してる」という手話をカマしても、全くいやらしくない。寧ろ感動がより重層的になる。映画表現の王道を一身に体現する役者陣は誰もが魅力的だったが、特に主人公のルビーちゃんを演じたエミリアジョーンズが本当に可愛くて演技も歌も超上手いので観てる間眼福だった。パーカーのダボっとした着こなし方も超ツボなのだが、家族に対してどこまでも優しい女の子である事が嫌味なく伝わってくる佇まいが素敵だった。総じて、2022年上半期の映画でこの映画より「巧い」映画が果たして現れるのだろうかと思わされる映画だった。アカデミー賞にどれだけ引っかかるか、今から楽しみ。