耶馬英彦

シン・仮面ライダーの耶馬英彦のレビュー・感想・評価

シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)
4.0
 実は仮面ライダーには詳しくない。菅田将暉や福士蒼汰といった若手俳優が登竜門みたいにその役を演じたことは知っているが、数多あるヒーローものや戦隊もののひとつだと思っていて、テレビも映画も観なかった。
 しかし「シン・ゴジラ」がとてもよかったので、庵野秀明監督に期待して鑑賞した。一方で「シン・ウルトラマン」みたいな期待ハズレも、ある程度は覚悟していた。本作品は、浜辺美波のバーターと思われる長澤まさみの意味不明なシーンはあったものの、全体としてはそれなりに面白かった。

 予備知識がないので世界観が不明だったが、本編を鑑賞した限りでは、それほど難しい思想ではない。当方が勝手に理解した本作品の世界観は、以下のようである。
 ショッカーの目的は人類の幸福の追及である。追求ではなく追及だ。しかしその基準は異常極まりない。人類のうちで一番コンプレックスが強いカテゴリーを基準とするのである。ショッカーのテーマは、最も恐怖と不安に苛まれつづけている人間たちが救われるにはどうすればいいかということだ。
 よりにもよって、ショッカーは最も短絡的な結論を出す。そういう人間たちに力を与えることだ。プラーナと呼ばれる、人間以外の生物のエネルギーの集合体みたいなものを注入することで、身体能力が飛躍的に向上する。出来なかったことが出来るようになるのだが、その度合いがあまりにも大きいので、喜びを通り越して人格崩壊に至る。他人を従わせるだけでなく、従わない者たちを当然のように排除するようになるのだ。

 コンプレックスの塊みたいな弱い人間が力を得たらどうなるか。ここで、2022年に射殺された暗愚の宰相を思い浮かべた人は、かなりの慧眼の持ち主である。本作品に登場するオーグたちは、あの男と同じく、人格破綻した指導者たちなのだ。ということはそれを作り出したショッカーという組織は、人類そのものということになる。
 池松壮亮が演じた本郷猛は、戦いに向かない優しさの持ち主である。それ故にショッカーをドロップアウトして、人格破綻者たちと闘う羽目になってしまった。そして、究極の強さとは闘わない優しさであることを示す。本作品の世界観には、そんな一面があると思った。
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