イベリー子豚

メインストリームのイベリー子豚のレビュー・感想・評価

メインストリーム(2021年製作の映画)
4.0
皆さんが低評価だったので油断してたら
《猛毒》でした。

予告では「SNSで人気が出た若者の暴走する青春」
イメージだったけど、実際は
「経歴・目的不明のZ世代の村西とおるが
YouTube界のジョーカーに登り詰める様子
(メインストリームの中心)を
隣で追い続ける人間がいかに振る舞うか」
を観察する映画。


食べ物で例えると
「アサイーソースのリコッタパンケーキに
レモンクリームとチョコミントと乗っけて
コカレロかけて火をつけました
仕上げは苛性ソーダ、おっとオマケにマリトッツォ」
ぐらい。ヤバい。

去年だったら間違いなく
公開出来なかったでしょうね。

出だしのオシャレで
スタイリッシュな編集から、てっきり
「LA発・映像重視の平凡な
ファッション・ポップコーンムービー」
だと思わせて
中盤以降は
「過情報化・超スピード消費・承認欲求社会」
をゴリゴリに皮肉った
なんともイヤらしくて
生々しいエンターテイメント。


今年で言うなら
『猿楽町で会いましょう』レベルの瞬間風力を
個人的に観測しました。


ちなみに一番のパンチラインは
《いったん生まれちまったものは成長するか、
死ぬだけだ》です。






以下、
ちょっとネタバレよろしくですが
興奮しちゃったので書いちゃいます!






主人公が
「リンク(=インフルエンサー)」ではなく
「フランキー(=ただの人」」という所も
エッジですね。

本来、彼を客観的に判断出来る
第三者のハズが
いつの間にかメインストリーム
(一過性の激しい流行)に飲み込まれて
自分を失ってしまう。


そして唯一、善人だった
「ジェイク(=まともな常識人)」の声は
ひたすら小さく、どこにも届かず
何も変えられない。


結局「リンク」とは何者だったのか??

これこそYouTubeや
Instagram、TikTokが生んだ
正体不明の《バズること》そのものです。


テレビや映画のような
スポンサーや規制委員会、
コンプライアンスという
「最後の良心の壁」を横目に
平気で通り抜け
「どんな人間でもいつでも無料で」
自己発信・投稿出来る無敵のコンテンツ。


その魔法の力をどう使うのか。

行使した代償は?
そして最後に何を選択するのか?


……いやこんなことはまだ
この作品の主題じゃないですね。


クライマックスのスピーチ、
墓石にあつまる弔問者、
勝手に批判や謝罪動画をあげる野次馬。


メインストリーム(他人が作り上げたイメージ)に
流され影響されやすく
自分だけはノーダメージな安全地帯から
弱味を見せた人間に興味本位に勝手に
マウンティング・後追い参戦・NAVERまとめして
石やらタオルを投げる、
マヌケで学習もしない、
顔を見せない敵であり
フォロワーである僕たちを徹底的に晒し上げてます。


流石コッポラ。
コッポラは「映画を撮る」一族ではなくて
「体制と世俗を独自の毒で切り取る仕事人」
一族だったんですよ。


それにしてもエマ・ストーンを失い、
ダークサイドに堕ちて以降、アンドリューも
ラドクリフ・ロードを邁進していますね。

どこまでも本音が読めない
彼に感じる得体の知れない嫌悪感は
昭和世代の僕がつい白い目で見てしまう
「平仮名アカウントの薄らサムいYouTuber」
そのものです。
(HIKAKIN、フワちゃん、ハラミちゃんはいいんだよ)

この調子でクセ強キワモノ変態映画に出続けて欲しいです。


世界には3人そっくりさんがいる説を実証中の
ハリウッド二人目の広瀬アリスこと
マヤ・サーマン=ホークさんも
初見かと思いきや
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でお会いしてたようですね。

美人さんなのに
取り巻き以上に見えない普通感が
良かったです。



長くなりましたが
まとめさせてもらいますと
この映画は絵文字やGIF、ドット画、
カラフルな映像加工なんかの表面上のポップさで
こちらを安心させといて
裏では虎視眈々とナイフを喉元に当てて
薄ら笑いを浮かべてる
恐ろしく計算された、
現代の闇を批判ではなく観察した作品だと
僕は思いました。