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リトル・プリン(セ)スのdm10foreverのレビュー・感想・評価

リトル・プリン(セ)ス(2021年製作の映画)
4.0
【individuality(個性)】

――バレエが大好きな7歳の中国人の少年・ガブリエルは同じ小学校に通う中国人のロブと友達になる。しかし、ロブの父はガブリエルの「女の子らしい」言動に疑問を示し、2人の友情を引き裂こうとする(Filmarksあらすじより)。

物語のテイストとしては以前鑑賞した「リトル・ガール」ともちょっと似ているんだけど、根本的に違うのは、主人公のガブリエル君が別に「LGBTQ」で悩んでいるというお話ではないという事。
ガブリエル君は自分が男であるという事は1㎜も否定していなくて、その上でたまたま好きになったものが、いわゆる「女の子っぽい」と言われるものばかりだったというだけの事。
それって「個性」って言うだけの話だと思うんだけどね・・・。

この違いって正に「似て非なる」というか、このようなお話を十把一絡げにして「Disney、またか・・・」と無意識のうちに間口を閉ざしてしまうと、きっと今後あらゆる事象に対しても先入観が邪魔をしてしまうようになってしまうかもしれない。

お人形やピンク色、そしてバレエが大好きなガブリエル君とひょんなことから友達になったロバート君(通称ロブ)。
二人とも家族と一緒に中国からアメリカへやってきた移民として描かれている。
みんな流暢な中国語を話していることからも「二世、三世」ではなく、もしかしたら最近まで中国にいたのかもしれない。

そんな中、中々クラスの中に溶け込めないロブに優しく話しかけるガブリエル。
いつしかお互いの家族も行き来するようになるも、ガブリエルの「女の子っぽい趣向」を訝しく思うロブのお父さんは、ガブリエルの両親に対して「何故気付かない?お宅の子は普通じゃない!」と声を荒げてしまう。
しかし、それに対してガブリエルのお父さんは・・・・。

このロブの父親がガブリエルの家族に言い放つ心無い一言(「心無い」というよりも、恥ずかしい無理解と言った方が正しい)。

≪普通じゃない≫

この「普通」という言葉ほど曖昧な表現はない。
「うちの息子はバスケを普通の男の子のようにバスケットをやっている」
「普通の男の子はお人形遊びなんかしない」

(普通、普通、普通・・・)

普通って言いながら、実は何の根拠もない「個人の価値観」だという事に気が付いていないお父さん。
でも、一体どこからどこまでを「普通」って呼ぶんだろう?
誰が「普通」を決めたんだろう?
「世界普通デー」とか「普通オリンピック」とか「国際普通機構」とかがあるんだろうか?
大学の入試の点数はみんな普通の点数じゃなきゃ受からないんだろうか?
TVに出ている人は全員「普通の人」じゃないとダメなんだろうか?
「ROLANDか、それ以外か」っていう事は、彼以外は普通ってこと?え?そういう意味だったん?

・・・普通って、何かつまらなくね?

「十人十色」とはよく言ったもので、十人の人が集まればそれぞれの個性がそこに集まる。
そこに「普通」を求める人は居ないだろう。
その場で「普通」を説いても、結局は「各々が普通」という結論に辿り着くのではないだろうか?

勿論「他人を傷つけたり、欺いたりしてはいけない」って言うのは大前提だし、それこそ普遍のルールであると思う。
でも、世界中の「普通」を構成しているのは「一つ一つの個性」であって、それがお互い距離感を上手く図りながらも共存していく中で、やがてそれぞれが見つけた妥協点を「普通」と呼ぶだけのことであって、必ずしもそれが正解でもなければ優劣でもないし、憲法や法律だって「普通」を元に作られているわけでもない。

今は「多様性を認める時代」のように叫ばれているけど、そもそもアダムとイヴという「異なる2人」が存在した時点から既に多様性は存在したわけで、それを今更どうのこうの言う方が寧ろナンセンスな話なんだよね。

で、このお話の良かったところ。
ロブのお父さんから息子の心を殺すような冷たい一言を浴びせられたガブリエルのお父さんの対応。
決して声を荒げることはなく「息子を誇りに思っているし、ロブだって素晴らしい子だから誇りに思って欲しい」と、対立よりも理解を選んだ強さ。

普通ね、いきなり家に上がり込んできて息子の事をクソミソに言われたらブチ切れますよ。
それこそ血の気の多い中国人なら尚更。

でも、ガブリエル君のお父さんは最後まで理性的に、諭すようにロブ君のお父さんに語り掛けました。
きっとね、そこに至るまで沢山葛藤があったんだと思います。
子育ての方針なんて、昨日、今日の思い付き程度の付け焼刃で出来るもんじゃないから。
だからこそ、長い時間をかけて「ガブリエルの個性と向き合う」と決めた夫婦の葛藤の先にあるものっていうのが、あのパパの対応に見えたんですね。

そう考えたら、パパもママもそしてその二人の間に生まれたガブリエルも幸せだな・・って。
ちゃんとお互いに向き合ってぶつかって「家族」してる。
だから強い。

そして、父親の価値観に対して「自分」というものを初めてぶつけるロブ君もまたいい子だなって感じました。
あの頃の子供にとってやっぱり親の価値観の影響って絶大だから、親が言った何気ない一言ですらも、子供の人間形成に影響を与える可能性だってあるしね。
そう考えると「パパが何といってもガブリエルはガブリエルだ」って真っすぐ言えたロブ君は大人だと思いました。

この作品を「LGBTQ」のような限定されたものではなく、もっと広義で根本的な「多様性」というテーマで描いたという点では、先日公開された「マイ・エレメント」とも通ずる部分もあると思います。

そういう観点で観た時、「個人的な趣向に対する偏見」という側面と「よそ者に対する風当たり」という二つの側面から『多様性』について考えることが出来る作品でもあると感じました。

プロット見ただけでも想像がつくような王道のお話かもしれませんが、演じている子供たちの繊細で素朴な演技も相まって、ちょっとウルッと来ました。
中々の良作だと思います。
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