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モガディシュ 脱出までの14日間のTSのレビュー・感想・評価

4.2
【ソマリアの悲劇に巻き込まれる大使館員達】88点
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監督:リュ・スンワン
製作国:韓国
ジャンル:戦争
収録時間:121分
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 2022年劇場鑑賞40本目。
 2700本目。順調に今年の目標鑑賞数を下回るペースですね笑 まあ本数より良い映画に出会いたいという気持ちが最近強くなってきましたが。今後ともよろしくお願いします。
 今日見た2本はどちらもあたりでした。今作は『ベイビー・ブローカー』と比べて上映館数が少ないですが、個人的には間違いなくこちらの方が良い。1990年代のソマリア内戦下において、韓国と北朝鮮の大使館員達がソマリアから脱出を図るという実話。脱出劇はいくつか見たことありますし、かの『アルゴ』も想起されられますが、こちらの方が良いと思われます。期待通りの良作でありました。

 せいぜい呑気なやり取りが続くのは最初の20分程度。そこからは終始緊張感に溢れたシーンが続きます。ソマリア内戦は1980年代から始まり、未だに終息の目処が経っていない最重要国際問題なのですが、ちょうど活発化する時、韓国と北朝鮮は国連の加盟を目指していたのです。今作の舞台が1990年なので、その実現は後になりますが、あれ程敵対していた韓国と北朝鮮が最終的には手を組み脱出を図ろうとするところが複雑ですが興味深いです。途中、やはりこの二カ国は相容れないので喧嘩をするシーンもありますが、そんなことしてる暇ではないと言いたくもなります。でも、それほど嫌悪感があるのだということは理解されました。

 それにしても、ソマリアと言えば外務省が出す国の危険レベルを見るとほぼいつも危険度マックスの国でして、今作において長らく最も危険な国の一つとなるその過程を垣間見た気がして震えました。少年でさえも平気で銃を持ち強奪行為を繰り返します。当時のバーレ政権に不満を爆発した反乱軍達は、この政権に関係する人間はもちろんのこと、この政権に加担する外国人達も襲っていきます。ソマリアと言えば海賊のイメージが強かったですが、内戦の泥沼状態も今作でほんの少し観れた気がします。しかし、実際はもっと凄惨なものなのでしょう。

 今作はソマリア内戦の緊張感を十分に醸し出したこと、またその中で、韓国北朝鮮両国が奇妙な信頼関係の下で脱出を図ろうとした実話を描いたこと、そして何よりもこれを韓国映画界が実現したことで評価されるのだと思います。
 特に3点目は興味深く、実際のロケ地はソマリアではなくモロッコとのこと。そりゃあ今でも安定していないソマリアでロケをするのは不可能なこと。その中で莫大な予算を巧みに扱い、これ程までドラマチックで迫力のある映画に仕上げるので、さすが韓国映画だなと感じました。思えば、昨今の韓国映画の世界からの評価は凄まじいです。やはりこれは日本映画と比べてしまうのですが、韓国映画界は完全にターゲット層を国内だけでなく世界に向けています。対して日本は国内で売れれば十分に利益を得られますので、その時の人気俳優やトレンドを巧みに使い、良くも悪くも大衆ウケする映画を量産します。もちろん、面白い日本映画もたくさんありますが、このあたりの意気込みの違いからみても、迫力においては到底韓国映画に勝てないと思われます。だって、この作品の規模のものを日本映画界がやれと言われてもやらないでしょうし、そもそも出来ないでしょう。そのあたりから見ても、とんでもない作品を仕上げたなと感じました。ハリウッドも脱帽することでしょう。

 終盤のカーチェイスならぬ、知恵を絞って必死の覚悟で車で逃げる脱出劇は今作のハイライト。『アルゴ』を思い出すシーンですが、こちらの方が印象に残るのではと思います。この直前に『哭悲』を観て感覚がバグってしまってると思うので、何とも言えませんが、暴力描写はまだ許容範囲内。厳しくて恐ろしい現実を見せつけられているのに変わりはありませんが、やはりこういう現実に蓋をしてはいけないと思いました。オススメです。
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