健一

流浪の月の健一のレビュー・感想・評価

流浪の月(2022年製作の映画)
3.7
『最終的に逃げる場所が無い人。』

劇中にこんなセリフが出て来る。
こんな酷いことを簡単に言う人がいるんだ。
私も昨年9月に生まれ育った実家が火事になってしまい いわゆる『最終的に逃げる場所の無い人』になってしまったのかな?
と感じてしまった。
悲しさと喪失感が一気に湧き上がってきてしまった。
そんな 最終的に逃げる場所の無い 青年と少女の切ない物語。

「シン・ウルトラマン」と同日に公開された本作。
こちらを後回しにしてしまった理由を考えても思いつかない・・・

李 相日監督の久々の新作。
「パラサイト」撮影監督のホン・ギョンピョとタッグを組み、本屋大賞受賞の傑作小説の映画化という事でかなり前から期待していた。

とても重くてヘビーな作品なのだが、李監督の「悪人」や「怒り」などの過去の作品を見ていて免疫力が付いたのか、鑑賞後にガクンと凹むことは今回は少なかった。
とは言え 相変わらず丁寧な演出の李監督の手腕、ホン撮影監督の映し出す壮大な映像美、主要キャスト達の 魂を削った 演技。
李 相日監督。
毎度毎度 期待を裏切らない数少ない監督のひとり。

松坂桃李は年末に発表される各映画賞の主演男優賞を総なめにするのではないだろうか。
めちゃくちゃ厳しい演技指導で有名な李監督の期待に心身共に見事に答えている。
この作品のために8キロも減量して挑んだあの 静かな風貌。
太った人が8キロ痩せるのは容易い事だが、中肉中背の人が8キロ痩せるのは大変な事だと思う。
狂気のような静寂のようなあの雰囲気。
簡単にできる演技ではない。
彼のキャリアの中でもトップクラスの演技力。作品の重圧感を全て彼が背負っていると言っても過言ではない。
広瀬すずちゃんも前作の「怒り」でかなり衝撃的な演技を披露してくれて、本作でもそれを上回る熱演を披露し『女優魂』を爆発させていて素晴らしい。
脇を固める 横浜流星、多部未華子もこの『損な役』のオファーをよく引き受けて作品に焼き付けてくれたものだ!
若き4人のキャスト陣に心からの賞賛を送りたい。

幼い子供が公園で雨の中、傘もささずにずぶ濡れになって座っていたら、あなたは傘を差し出し『ウチに来る?』と言えますか?

私はとても出来ない。

傘ぐらいは差し出すとは思いますが 見ず知らず子供に『ウチに来る?』なんてとても言う勇気がない。

本作の主人公の男の行動は『勇気』ではないんだろうと思う。
人間が持つ本能的な『何か』からこの悲劇の物語は始まってしまったのだ・・・

不幸でも生きていく・・・
絶望でも生きていく・・・

ただでさえ、ツラいのにSNSの波が更に二人を追い詰めてしまうこの現代社会。

傘はそっと少女のそばに置いておこう。



2022年 5月17日 8:15〜
グランドシネマサンシャイン池袋screen 9
💺103席
客入り 15人くらい。

鑑賞後、なぜだか無性にバーガーキングのワッパーチーズバーガー🍔が食べたくなり同ビル1階のバーガーキングでワッパーにかじりついた。
外は雨、帰り道、公園を通り抜けて歩かなければならない。
ベンチに誰も座ってなくてホッとした。

☔️
健一

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