とみやま

沈黙のパレードのとみやまのネタバレレビュー・内容・結末

沈黙のパレード(2022年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。どんでん返しが要所要所にあって、あっそういうことか。たしかにそんな場面あったな、とか思いながら楽しんだ。
キャスト陣もとても良い。メインキャストは配役ピッタリだなあと改めて思ったし、「なみきや」の登場人物たちも、特にずんの飯尾さんがよかった。主要人物だからかなり登場するけど、重い演技のおかげで、すーっと気持ちが入ってきて、うんうん、まったく蓮沼ったら…と頷きながら見られた。

テレビドラマの延長線にあるような演出は多い。映画館でテレビドラマ見ているような感じ。宝島の衣装の「なみきや」関係者が、カッコいい感じに演舞しているのも、妙にミスマッチで浮いているというか、安っぽいというか…。タイトルクレジットで急に差し込まれたことの違和感でそうなってしまったのかも。前回の真夏の方程式がドライでかっこいい撮影が多くて、見応えのある演出が多かったから、よりそう感じた気がする。

それにしても、完全黙秘をすれば無罪になるというロジックが、どうにもしっくりこない。ちょっと調べると法律事務所のホームページなんかに「不利な状況にはならないが、自白以外にも客観的な証拠が発見されれば不利な状況になることは十分ある」と書いてあって。そりゃそうだよな、だから警察は現場捜査するんだろうし、と頷いた。被害者の血がついた作業着っていう客観的な証拠があるのに、被疑者が沈黙を貫いて嫌疑不十分として不起訴になるの?現実的に黙秘を貫いても有罪になるケースはあるんじゃない?と思ってしまった。推定無罪の原則とはいってもさ、さすがにこれでは警察が機能しなさすぎる。

それに、サオリを殺したのは留美という誤解を自白しなきゃいけないところ。「留美がサオリを突き飛ばした場面を目撃した蓮沼が留美を脅していた。全てを知った新倉先生が蓮沼を確信犯的に殺したのだが、本当はあの時サオリは気を失っただけで、意識を取り戻したサオリを蓮沼が焦って殺した。」という事実に対し、新倉先生が自分の抱える真実を語るか沈黙するか選択を余儀なくされるという状況が、なんかしっくりこない。
確かに新倉先生は、留美から真相を伝えられて、計画的に蓮沼を殺した。でも、留美がサオリを殺していなくて、本当は蓮沼が殺した可能性がある。その物的証拠は蝶の髪留め。蝶の髪留めを押収するのは新倉先生が自白することによって成り立つ。こういったロジックのはず。

でも、サオリ殺人は警察側も遺族側も蓮沼の犯行だという前提で動いているから、「留美が出頭して証拠を出すも血痕が見当たらない。血痕がついた蓮沼の作業着と食い違いがあり、留美の事実誤認と判断される。蓮沼に脅されていた状況と死体の状況を加味して捜査続行」っていう流れで上手くいくのでは?とか思ってしまった。
「真実を話せば留美が救われて、サオリ殺人の真相にも近づくかもしれない。しかし、自分はより強い罪を背負うことになる」というような究極の選択には、どうしてもならないんじゃないの?微妙な掛け違えがないか?と妙に気になる。
捜査が難航しているのは蓮沼が証拠を消したことによるものだとして、消し切れる証拠と消し切れない証拠はあるんじゃないの?3年間死体を家に隠すにも異臭騒ぎにならなかったのか?的な軽い疑問もあるけど、そもそもそんなにも容易く完全犯罪は成立できるの?

あと、蓮沼が転がり込んでいた増村は、本橋事件の被害者家族の身内だったっていう流れも唐突。前の会社の同僚で同僚だった時点で増村は知っていたはず。3年後に転がり込んで来た時点でサオリ事件は世間に出ていた。どの時点で復讐を考えていたのかが絶妙にわからない。結果から見れば違和感ないけど、時制軸で考えると「?」となる。それに、湯川先生がその事実を見通すには情報少ないのに、よく分かったなそれって思ってしまった。頭で考えると整合性が取れるが、心情で考えると上手くいかないロジックと、心情でいけば整合性取れるが論理的に上手くいっていないように思われるロジックが、ちらほら見かけられた。

あと、これは予告編の時から思っていたけど湯川先生が「血も涙もない」について反論するところ。あれ屁理屈過ぎない?
慣用句を生物学的な知見で言うのは頭の良い中高生くらいなら分からないでもないが、大学教授が常識的な慣用句にいちゃもんをつけるのは、いくらなんでも頭悪いでしょ。テレビ的な「ほら、湯川先生っぽいでしょ?」のサービスみたいになってて、なんかなーと思う。原作にもあるのだとしたら、もっとどうかと思う。

あと、最後に被疑者たちの結末を分かりやすく説明するのも、ちょっと…と思った。最後、新倉先生が沈黙する場面がとても印象的で良かったのに、活かしきれてない感じがして、ちょっと冷めてしまう。「容疑者xの献身」で乗れなかったことが全く同じように繰り返されていて、なんかなあ、と。

それにエンドロールの映像。ドラマと映画版の湯川総集編みたいなやつ。ファンサービスなんだろうけど、映画の幕切れと一切関係ない映像(シリーズ全部追わないと訳わからん映像)を流すのはどうなの?と思う。そんなことしなくていいから、またドラマか映画やってよ!たまーにスペシャルドラマ作るでもいいからさ。そっちの方がみんな喜ぶのに…。

なんやかんや思ったけど、ひさびさにガリレオシリーズの登場人物を見ることできたし、楽しかった。
とみやま

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