クロ

ミルコのひかりのクロのレビュー・感想・評価

ミルコのひかり(2005年製作の映画)
4.4
映画という「見る」行為に根ざした媒体の鑑賞者-消費者の私が、どうしたらひかりを失った子供の気持ちをほんとうに理解できるのか?自分を彼の立場に置いて考えはじめた途端、私は私の足場を失う。「相手の身になって考えよう」という子供の時分から教えられたルールはどうしようもなく難しい。

私の拠り所、たとえば、初夏の桃のやわらかい果肉からあふれる汁の甘いにおい、出番を間違えて初夏のあけぼのにひとり鳴きはじめたひぐらし、愛犬のぐるるとふるえるあごのうらや膨らんではしぼむおなかの手触り、冬の夜空にひとつきんきんに輝くシリウス、それらは私に流れ込んできたものの中から月日をかけて掬いとった私の喜びであり、喜びの総体が私だ。その一部や全てが失われたとして、私は私なのか?

不意に襲った事故でミルコは世界の輪郭を失った。もうあまり役にたたなくなってしまった彼の目はそれでも虚空をじっと見つめ、新しい光のありかを探っていた。人は子供であれ大人であれ、男であれ女であれ、目が見えようがそうでなくても、夜、自分の羽をたたんでまどろむ場所がどうしても必要なのだ。

フランチェスカの手のぬくもりがミルコを通して伝わってきた。
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