Masato

猿の惑星:創世記(ジェネシス)のMasatoのレビュー・感想・評価

4.9
猿の惑星 聖戦紀
War for the Planet of the Apes
に向けて復習

自分の映画人生の中でもベスト級に入る映画です。
映画の面白味と意義が完璧に両立しています。

まず、最初の猿の惑星の前日譚となる本作ですが、現実で起こりかねないようなストーリーになっているところが良い。
アルツハイマーの治療薬として作ったものを実験としてチンパンジーに投与したら、知能指数が凄まじく向上し、その実験台の子どもであるシーザーが反乱を指揮するまでを描いています。

1969年版と辻褄を合わせるために、イカルス号のシーンや、なぜ人間は少なくなってしまったのかがエンドロールまで綿密に描かれている。

猿の惑星の原作は、戦時中に日本の捕虜となった原作者がその恐怖を置き換えて作ったものとして有名。そして、1969年から始まる一連のシリーズは当時の政治状況を色濃く反映していることで有名ですね。

本作も現代ならではの知られざる社会問題を取り扱っています。本作の前半部分は殆ど事実を基にしています。(ここから、町山さんの解説で知ったので、受け売りになってしまいます)
ジェームズマーシュ監督の「プロジェクトニム」というドキュメンタリー映画や、日本の番組でも取り上げられている、チンパンジーのニム君を使った治験を基にしていると思われます。

まず、ある教授がチンパンジーが人間と同じ生活をしたらどうなるのかという実験を始めて、ニム君は本作のシーザーと同じく普通の人間の家庭で育てられます。手話も教えて、知能は人間の何歳児レベルはあったと思います。当時、テレビに出演したりして、かなり有名だったそうです。
遂に思春期を迎えて、育ての親である女性に性的興奮を覚えて襲ってしまいました。
そして、ニム君は公の場から姿を消して、そのあとはクスリの実験台として使われてしまいました。

ここで浮かび上がるのは、ニム君はチンパンジーだけれども、普通の家庭で人間と同じように育てられました。つまり、外見はチンパンジーだけれでも、中身はほぼ人間なのです。それなのに、クスリの実験台にされる。勿論、バイトでやる治験とは訳が違います。モノのように使われて生命に危険があろうが大量に多様なクスリを強制的に投与されます。主にインフルエンザの治療薬の実験台に使われました。
人間の心を持つニム君は、奴隷よりも劣悪な環境で治療薬を打たれまくった時、どのような気持ちだったのでしょうか?想像できません。

ニム君ではなくても、チンパンジーというのは人間に近い知能があります。よって、心が存在します。人体実験と同じです。
でも、チンパンジーが実験台になってくれているおかげで、私たちは毎年インフルエンザの治療を受けれます。
非常に難しいです。チンパンジーたちの犠牲無くしては今のインフルエンザにかかりにくい快適な生活はないのですから。答えがありません。どうしろとも言えません。だからといって、この現状をずっと見てるだけでいいのか?

こういった現状を知るということがこの映画の1番の意義だっただろう。
(詳しい話は町山さんの映画塾を見ると良いです)

映画としての面白さは尋常じゃないくらいです。シーザーの感情をセリフを使わずに繊細に描写し、じわじわと侵食してくる猿の怒りがうまく出ていました。人間が敵で猿を主人公にした映画を人間が見ているという環境で、非常に複雑にもなる。シーザーの視点から人間を俯瞰して見ることができ、非常に考えさせられる。
全体的な構成が素晴らしく、全くもって飽きない。最後の大戦闘シーンは素晴らしい。特に、あのゴリラ。髑髏島のキングコングと同じくらいにカッコいい。アツイ、泣けるぜ。
巣立ちする親子の映画にも思えてきて、どこか切なさも感じられる。

VFXの進化はこの作品で顕著に出てきていて、モーションキャプチャーによるチンパンジーの繊細な動きと表情がストーリーにも影響してくる。指輪物語でゴラムを演じたアンディサーキスがシーザーを演じているが、本当に芸達者な人だと思う。チンパンジーの動きを違和感なく再現できるなんて、たぶんアンディサーキスしかいないだろう。

リブート作品にも関わらず、稀有な傑作だ。
Masato

Masato