むっしゅたいやき

巴里の屋根の下 4K デジタル・リマスター版のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

3.8
19世紀初頭、巴里の若者の姿を捉えた、愛すべき小品である。
監督はルネ・クレール。
個人的にこの人の作品のジャケットには、毎度小洒落た印象を受ける。
シンプル且つノーブルで、内容はさて置きジャケットに就いてだけは、私の嗜好に完全に合致する稀有な作家である(ルネ・クレールがデザインした訳でも無かろうが)。

本作のストーリーラインは、巴里に暮らす楽譜売の青年と、チェコからの移民である女性との恋物語であり、この点に就いては特段言及を要する点は無い。

特筆に値するのは音声及びショットと云った演出面となる。
窓ガラス越しの会話はパントマイムで視覚に訴えつつも無音とし、逆に暗闇での格闘は視覚を闇で閉ざし乍らも音声にて二人の罵り合い、息遣いまで載せる等、無声・発声両方の長所を活かす演出は現代では珍しくも無いかも知れぬが、サイレント-トーキーの過渡期の作品である事を考慮すればクレールの試みに脱帽するより他は無い。

カメラに就いてもティルトアップ・ダウンに由る縦方向のショットを多用し、舞台を奥行きあるものとする他、ヘッドライトに浮かぶ二人を捉えたショット等、見所も多い。

ただ惜しむらくは、三股を善しとするこのヒロインにシンパシーを感じられず、作品への没入感まで阻害されてしまう点にある。
モテぬ男の僻みやも知れぬが、色々とやり切れなさの募る作品である。
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