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最後の決闘裁判のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

最後の決闘裁判(2021年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

この面白さは原作の面白さのような気がする。異なる3つの主観からひとつの事象を捉えるのは、登場人物の内的葛藤を描く上で最適であることからして、本作が本当に伝えたいことはやはり小説でないと伝えられないのではないかと思う。

実際に映像として観てみると確かに面白いのだが、視点の切り替えによって得られるトリックや腑に落ちた感じがあまり得られなかったのは事実であり、それは同じアングルのカットを別の章でも使いまわしていることが最大の原因だと考える。せっかく感情移入していたのに、急に客観へとアングルが切り替わり、やけに冷静にさせられたのは残念だった。

それに物語の根底にある価値観にも少々矛盾があり、その矛盾が作品を楽しむ妨げとなっていた。今回の件、ル・グリが悪いのは当たり前だが、王から決闘裁判の許可を得た後の夫に対するマルグリットの態度はいかがなものかと思う。命をかけて神にまで自分は真実を述べていると誓ったにもかかわらず、「夫が決闘裁判で負けた場合に受ける罰を知っていたら一連の出来事を無きものにしていた」という台詞を言い放ち、簡単に真実を曲げてしまう。物語の構成からしたら、彼女は絶対に真実を訴え続けなければならない存在。あそこでわざわざ彼女の価値観を揺るがせる必要があったのだろうか。もし揺るがせるなら、もっと時間をかけてやるべきで、そんな簡単に揺るがせて元の価値観に戻すなんてことをしてはならない。そんなことをやるぐらいなら、夫が勝ってもなお彼女に対する疑いは晴れないといった結末を迎えて、やっぱりあそこで思いとどまるべきだったと後味の悪い終わり方にした方が良い。

全体的に確かに面白かったのだが、こういったどこか惜しい点が作品の世界にのめり込む妨げになっていたのも事実である。歴史ものは元来作るのが難しいし、第一「真実」と言ったところで結局何が真実なのかは誰にもわからない。だからこそ、物語の構成や演出のやり方には最新の注意を払う必要がある。そこ重要性を一種の反面教師として学んだ作品でもあった。
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