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記憶の戦争のzatのレビュー・感想・評価

記憶の戦争(2018年製作の映画)
4.0
どの国、立場であっても、被害者にも加害者にもなり得る。植民地時代や慰安婦問題では被害者である韓国は、同盟軍として参戦したベトナム戦争においては加害者側。

かつて民間人虐殺が行われたベトナムのフォンニィ村で撮影された映像がどのカットも本当に美しい。凄惨な歴史が刻まれ、絶えず静かに鎮魂の祈りが捧げられてきた土地の人々や空気や光が繊細に掬い取られている。

被害者は証言する度にその想像を絶する悲惨な経験を記憶から呼び戻すことで、身を削るような苦痛に苛まれていること。なんとか気持ちを奮い立たせ、声を上げようとしている人物に対する敬意や配慮が、作品からもパンフからも窺える。制作側と被写体の人々の非対称な関係性って意外と観客は無頓着で他人事だったりする。

「ゆきゆきて、神軍」(1987)を観た時、何より第二次大戦で戦地に赴いた世代がこの頃まだこんなに元気(70代とか)なんだということが衝撃だったけど、この虐殺事件も1960年代の話だから退役軍人達がまだ皆すごく若い。更に若い世代の女性監督が今このタイミングでこの題材を取り上げて丁寧に作品化している。

タイトルがあまりピンと来なかったけど、英題はUNTOLD。「(語られることのなかった)記憶の(中だけに留められていた)戦争」というようなニュアンス?(韓国語題はグーグル翻訳したらWar of Memoriesらしく邦題の方が直訳。)

聾のおじさんが話す手話は自己流のものらしいが、かえって手振り身振りと表情から言語を超えてダイレクトに伝わってくるよう。手話のオーラルヒストリーって初めて観たと思うが、字幕付きの外国語映画にはない感覚にはっとした。聾の両親を撮ったという「きらめく拍手の音」もぜひ観てみたい。
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