マヒロ

アステロイド・シティのマヒロのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0
アメリカの片田舎の荒野にある小さな町“アステロイドシティ”で、科学の賞を獲った子供達とその親が招待され、授賞式が行われることになる。戦場カメラマンのオギー(ジェイソン・シュワルツマン)は受賞予定の息子を連れて町にやって来るが、そこである事件が起きて街から出られなくなってしまう……というお話。

一応『アステロイド・シティ』のあらすじは上記の通りだが、今作は入れ子構造になっており、『アステロイド・シティ』は舞台劇でありそれを執筆する作家のコンラッド(エドワード・ノートン)と演出家・役者達の物語、そしてその様子を特集したテレビ番組という三つの層に分かれている。本筋となる物語がありつつ、それを俯瞰して見ている存在がいるという構図は『グランド・ブダペスト・ホテル』や『フレンチ・ディスパッチ』と同じ構図で、監督お気に入りのやり方な模様。
これは『グランド・ブダペスト・ホテル』でも思ったが、この入れ子構造が効果的であるとはあんまり思えなくて、むしろ本筋から逸れた視点が入り込むことで印象がばらけてしまって勿体無いような気がする。エンドクレジットを眺めてたら、スペシャルサンクスにブライアン・デパルマの名前があったので、もしかしたら彼が好む“主となる出来事を覗いている第三者がいる”という設定をオマージュをしているのかなと言う気もするが。

ウェス・アンダーソン作品と言えば、作り込まれた端正な画面とその中でちょこまか動き回るキャラクター達のシュールなやりとりが特徴で、近年の作品ではそれが極まって少し情報過多になっているという印象があったんだけど、今作ではそのドタバタ感が薄れて落ち着いた空気感になっており、個人的にはかなり良い塩梅だった。どこか彼方から聞こえて来るような控えめな劇伴に、この世の果てのようなアステロイド・シティの退廃的な風景、時折行われる核実験の爆音と遠くに見えるキノコ雲による終末的な空気感など、全体的に漂う寂しげな雰囲気がたまらなく良かった。例えるなら旅行の日の帰る日の朝とか、閉園間際の遊園地とか、そういう楽しかった思い出の終わりの方みたいな雰囲気がずっと漂っているような感じ。

合間に挟まれるモノクロで描かれる現実パート(と言えば良いのか?)は、本編のアステロイドシティパートが凄い好きだったので正直ちょっと邪魔ですらあったが、最後まで観ると実はここが今作の核となるメッセージを持ったパートなのかなとも思った。途中、主人公のオギーを演じる役者(ジェイソン・シュワルツマン)が、劇中で亡くなった設定の妻を演じる予定だった役者(マーゴット・ロビー)とたまたま出会うシーンがあるが、普通は“亡くなった人が創作物の中で生き続ける”という設定が描かれがちなところ(それこそデパルマの『ミッドナイト・クロス』とか)、今作では“創作物の中で亡くなった人と現実で再会する”という逆の展開になっている。終盤、キャストが「目覚めたければ眠れ」というセリフを合唱するシーンがあり、その真意が語られることは無いが、一見矛盾したこの言葉が今作の芯の部分で、創作物によって現実逃避することも出来るし、逆に創作物によって傷ついた心も現実に戻ればそこに癒しがあるかも……ということなのかなと思った。

まだ真意を掴みきれていないところもあるし、少し気になるところはあれど、ウェス・アンダーソン作品の中でも上位に入るくらい好きな作品ではあった。

(2023.119)[25]
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