かなり悪いオヤジ

アステロイド・シティのかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
3.5
2023年、脚本家組合に合流する形で俳優組合がストライキを起こした。ネット配信やAI の影響によるエキストラクラス俳優の待遇悪化が理由だという。本作に出演しているビッグネーム・スター軍団にとっても一大事で、映画が実際撮影出来ないという状況に追い込まれたのである。ウェス・アンダーソンがその鼻息を和らげようとしたのかは定かではないが、本作に掲げられている“映画俳優の連帯”というテーマを強調するために、3重の入れ子構造というブレヒト的な、映画俳優という職業その物にスポットを当てる演出をとったに違いない。出番のない日でも衣装を着て役になりきる主役ジェイソン・シュワルツマンの実話エピソードなども盛り込まれているらしい。

映画タイトルの“アステロイド”とは小惑星のこと。一見砂漠に飛来した宇宙人ににひっかけたようにも思われるが、おそらくそれはミスリードであろう。民族的にユダヤ人を先祖にもつ俳優がほとんどをしめるハリウッドにおいては、この“アステロイド”という単語が別の意味を持ってくるのである。ダビデの星を意味する“六芒星”が見る角度によって“五芒星”にも見える特殊な形をした立体を、出生を偽って(時にはサタン?と化す)白人を演じ続けるユダヤ系の映画俳優“スター”に例えたタイトルといえるのではないだろうか。

撮影は、まだまだコロナ禍が続いていたアメリカを離れ、人気のないスペインの砂漠で行われたとか。核実験や隕石、UFOや宇宙人のエピソードはロケ地に見合った後づけのトッピングであり、映画の本旨とはあまり関係がないように思われる。(同監督作品『天才マックスの世界』を彷彿とさせる)超天才キッズたちに報奨を与える元帥を演じたジェフリー・ライトあたりから、「コロナ禍に因んだ(情報)隔離ネタにしてみたら」という提案が、もしかしたらあったのかもしれない。

劇作家(エドワード・ノートン)を前に、最終打ち合わせのため集められた演劇俳優たち。製作者(ウィレム・デフォー)の合図とともにいきなり全員眠りにおちたと思ったら、突如スポットライトが当たった俳優たちが“You can’t wake up if you don’t fall asleep(目を覚ましたければ眠れ)”と同じ台詞を連呼して、最後はカメラ目線で大合唱。これが実に謎に包まれたシーンなのだが、本作の劇伴にも使われているシャーヴィス・コッカーの同名タイトルソングの歌詞を読んではじめて合点がいった気がしたのである。

その歌詞とはこうである。
You can't wake up if you don't fall asleep
You can't fall in love and land on your feet
You won't smell the roses if you never plant a seed  
And you can't wake up if you don't fall asleep
You can't make an entrance if you keep missing your cue
You won't pick a winner till you learn how to choose
You never find a treasure unless you dig deep
And you can't wake up if you don't fall asleep
Oh, you'll never have memories worth keepin'
Oh, you'll never find the truth you are seekin'
While you are sleepin'
But you can't wake up if you don't fall asleep
So go live your dreams and live them real deep
There is some countin' money and there's some countin' sheep
Oh, you can't wake up if you don't fall asleep
If you don't fall asleep

つまり、ここで語られる“夢”=“映画”そのもののことであり、“眠りにおちる”=“映画を観る”ことではないか、と思うのである。この映画を通じて監督ウェス・アンダーソンは映画俳優たちに代わってこう代弁したかったのではないだろうか。俺たち映画俳優が映画の中で演じて見せなければ、このウソだらけの世界で真理を見いだす(目を覚ます)ことなんて出来はしないだろう。だから俺たち映画俳優は、夢(映画)の中で演じ続けるのさ、ストライキがあろうと、コロナ禍に見舞われようとね。それが俺達映画俳優たちの生きる意味なのさ、と。