磨

余命10年の磨のレビュー・感想・評価

余命10年(2022年製作の映画)
3.7
数万人に1人という不治の病で余命10年を宣告された女性を描いた同名小説を藤井道人監督のメガホンで映画化した恋愛映画。

鑑賞前の印象を申し上げると、難病×ラブストーリーはもう一昔前のイメージ。今更感は拭いきれないし、そもそも「新聞記者」「ヤクザと家族」で難しいテーマを扱いつつも素晴らしい作品に作り上げた藤井監督がなぜ恋愛映画を???と、かなり懐疑的な鑑賞だったのですが…


これはビックリ、なかなかどうして良作でした。

評判の良さは知ってたし、普段厳しめの方々の評価の高さも観賞後は大いに納得。斜に構えててほんとゴメンナサイ…(笑)


邦画の悪い部分である”とりあえず泣かせときゃいい”ような強引さはなく、単純な御涙頂戴で無い所に好感。もちろんそういう映画だしストーリーそのものは捻りもないけど、むしろそれがいい。
映像も邦画ではあまり類を見ない美しさで、RADWIMPSの楽曲もその情景に調和していた。

また、主演こ小松菜奈と坂口健太郎はもちろんの事、他のキャストの良さも見どころで、父・松重豊、母・原日出子、姉・黒木華、大学からの親友・奈緒、中学の同級生・山田裕貴、他にも仕事の上司にはリリー・フランキーやMEGUMIなど、物語を知らなくてもそれぞれのイメージが湧いてきそう。
“秀逸”ではなく“普遍さ”を感じる適材適所の配役は素晴らしい。気を衒わず、純粋にメインのストーリーを生かすのも高評価の要因だったと思う。

うーん、優秀な原作とスタッフやキャスト次第で、いい映画ってできるんだなぁと改めて思う。

とにかく、政治の闇に切り込んでも反社の実態を描いても見事な手腕を発揮する藤井監督と、どんな作風の映画でも惹きつけられる魅力を放つ小松菜ちゃんには心服です。

原作者の小坂流加さんも、主人公と同じ原発性肺高血圧症で長い闘病の末に2017年に亡くなられたそう。
フィクションともノンフィクションとも言える物語だけど、“生きる”と意味では共通。原作者だからこそ込められた想いは胸に響いてくる。
磨