さよなら僕のマクガフィンたち

ある男のさよなら僕のマクガフィンたちのネタバレレビュー・内容・結末

ある男(2022年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

こうまでしないと人生をやり直せない人だっているんだ!

大祐、つまりXにとっては、里枝たちと過ごした4年弱の人生こそがかけがえのないものであっただろう。それに説得力を与える、前半の幸せなパート。そして、自分の出自が、自分から脱皮したくなるような原誠のもがき。

安藤さくらと窪田正孝の演技もすごいが、在日3世で自身のアイデンティティも揺らぐ複雑な役の妻夫木、まるでレクター博士のような不気味さを放つ小見裏役の柄本明の演技にも凄みを感じる。

戸籍交換など聞くと不気味で仕方ないが、鑑賞後は、人生やり直せるのであれば真正面から否定できるものではないという印象になる。
やり直した結果、その人にとって良い人生を送れるのであれば、それでいいのではないか。
また、過去にどんなことがえあれど、自分が接した優しい人柄こそが本当のその人なのであると。

ルネ・マグリットの『複製禁止』という奇妙な絵がモチーフとなり、割り切れない余韻を残しこの映画は終わる。おそらく城戸は大祐として生きるのであろう。

「分人主義」を提唱し描いた平野啓一郎の原作も読んでみようと思った。傑作。