えいがうるふ

さがすのえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

さがす(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

評判の良さと自身の「岬の兄妹」への評価から期待値を上げすぎたか、やや肩透かしをくらった印象。惜しい。

冒頭から全編に渡って ポン・ジュノ監督の影響をひしひしと感じるつくり。映像の作り込みや役者の演技は文句なし。
佐藤二朗演じる主人公は定職もなく万引常習者で子どもにその尻拭いをさせるという残念な父親である。心優しく純朴なところが美点とはいえ、あまりにも浅はかで愚鈍なその思考回路に延々とやきもきさせられる。純朴さとは単純さでもあり、薄々何かに気がついても、むしろ無意識に自ら思考停止することで窮地をやり過ごそうとする悪手を重ねていくことで行き着く悲劇。いかにもありそうなその人物描写はもちろん見事なのだが、役者本人のキャラに依存し過ぎているようにも思え意外性はなかった。
一方、娘役の伊東蒼の演技と感じさせないナチュラルな芝居には感心した。本当にどこにでも居そうな大阪の女子中学生でありながら、「親がアレだと逆に子どもがしっかりする」パターンを地で行くような意思と行動力にあふれた魅力的なキャラクターを見事に体現していた。いっそのこと彼女を主人公にして、病弱な母といろいろと残念な父親を支えてきたダブルヤングケアラーとしての娘視点でその若くして辛酸なめすぎのビターな生き様を描いた脚本だったならばまだ共感しやすかったかも知れない。伊東蒼の演技力をもってすれば、充分可能だったろうと思う。
また、清水尋也の役どころもはまり役だった。はまり役過ぎて登場シーンから既に怪しすぎて苦笑したほど。サイコキラーとしては言動がガバガバすぎるキャラクターで、かなり早々にその隠しきれないヤバさがちらほら露呈しているのに、それでもまんまとその手中にハマっていく主人公が切ないやら情けないやら。頼むよ、お父ちゃん・・。

とにかく残念だったのは脚本の粗さ。途中で無意識に寝落ちしたのかと思ったほど、必要と思われるシーンの不足に何度も首を傾げた。
特に、重度のALS患者で寝たきりの妻を夫が介護する過酷な日々が度々描かれるが、それらのエピソードのどこにも娘の姿が無いのは明らかに不自然。介護があまりにも大変なのでどこかの親戚か施設にでも預けられていたのか?と思うほど娘の存在が希薄。そのせいで家族三人(特に娘と生前の母親)の絆が見えず、時間軸が前後することもあり非常に断片的な家族像になってしまった。
自殺志願者たちの心象描写も中途半端だし、ガバガバな手口で犯行を重ねる猟奇殺人犯に対して無能すぎる警察もなんともお寒い。

それでもエンディングは良かった。球がなくなってもひたすら淡々と息の合ったラリーを続ける父娘。観る者に最終的な解釈を委ねるこのシーンは、セリフは一切ないがあまりに饒舌で忘れがたい。
きっとこの親子はずっとこうやって日々を凌いで来たのだろうし、これからもずっとこうして生きていくのだろうと私は思った。

グレーゾーンの障害を抱えたまま、福祉も頼らず(その手に至れず)ギリギリのところで糊口をしのぐ生活を維持している人々の、一歩間違えば即とてつもない闇に転げ落ちるその日暮らしの危うさ。「岬の兄妹」にも通じる片山監督のその視点のシャープさは素晴らしいだけに、個人的にはなんとも惜しい作品だった。