TaichiShiraishi

ベルファストのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

おそらく本作はモノクロで監督の幼少時代とその激動の時代背景を描いているという点からも3年前の『ROMA/ローマ』の世界的成功を受けて、ブラナーはじめ制作陣が「いける」と判断した作品だろう。少なくとも何の影響も受けていないとは考えずらい。どちらかに優劣をつけるつもりはないが、『ROMA/ローマ』が135分あったのに対し、『ベルファスト』はこの話の密度で98分にまとまっているのが驚異的だ。
もちろん演出スタイルの違いも関係しているが、短い時間でキャラを立てて観客に理解させ、時代背景と何が争点になっているのかもパッと手際よく説明する手腕も見事だった。

監督本人が「とてもパーソナルな作品」と語っているが、自分の幼少時代の記憶や自分が愛した人々、そして触れてきた芸術、サブカルチャーへの愛がしっかり描かれているので、時代も場所も超えて誰もが共感しやすい内容になっている。穏やかな日常が突如壊され、当たり前の暮らしもできず、新天地への旅立ちを考える……という内容はどうしても今のウクライナ情勢と重なるし、気分が沈んでしまいそうになるが、そんな時でもカルチャーとユーモアは人を救ってくれると真っすぐなメッセージを超える。
単にノスタルジーを表現するためだけのモノクロではなく、不安な日々を過ごす中で映画や舞台だけはカラーで光り輝いて見えるという演出も、芸術を愛する人なら共感してしまうだろう。

また、どんな危険な場所でもその土地とそこに根付いた記憶を愛し、離れがたいと思う人もいるという当たり前の事実をしっかり伝えてもいる。「危なければ逃げればいい」という問題ではない。新たな旅立ちを迎える人、残る人、どちらも否定せず、温かく包み込む人間賛歌映画として、そして芸術賛歌映画として今後も語り継がれていくだろう。
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