冥王星

ワース 命の値段の冥王星のレビュー・感想・評価

ワース 命の値段(2019年製作の映画)
4.5
主人公マイケル・キートン演ずる 調停と裁判外紛争解決の専門家 弁護士ケネス・R. ファインバーグ氏の回顧録『What Is Life Worth?』が原作です。

2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロの被害者と遺族に補償金を分配する「9.11被害者補償基金」を政府が設立したのは同時多発テロのたったの13日後でした。

ケネス氏はその最高執行責任者(特別管理人)を引き受けます。
弁護士仲間のカミラ・ブロス(エイミー・ライアン)は管理代理人。

ケネス氏は分配方を策定し議会は可決します。

この基金が設立された裏には
テロリストが乗っていた(危険分子を乗せた管理不足)アメリカン航空とユナイテッド航空に対する訴訟を避けるため公的補償を行うとの意図があります。

もし裁判になれば負ける。莫大な補償金の為航空会社は潰れる。アメリカ航空交通は危機に陥り、テロリストの思惑通りとなる。
と言うロジックです。

また、当時の大統領はブッシュ。共和党。
ケネス氏は民主党支持者です。

この法案を失敗に追い込み裕福層の集団訴訟に持ち込みたいリー・クイン弁護士(架空の人物)は勿論共和党側です。
だから司法長官は口を挟みません。

条件は
補償金80億ドル内で被害者遺族7000人に分配。
上限12億円 下限2,000万円
申請期日2003年12月22日までに80%以上(後に無期に改正)。これだけ取れれば訴訟を回避出来るとの政府の判断。
航空会社に対するいかなる民事上の損害賠償訴訟に参加しないという誓約。

補償金配分に反対するリーダー チャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)は、その時WTCにいた妻を亡くした弁護士。
命に値段はつけられるのか。公平ではない。
と修正案を要求する。

ケネス氏は
値段はつけられない。公平ではない。
のは分かっています。
補償で傷が癒やされないのは今までも経験してきた事。
最初から勝ちは無いと分かっています。
また彼はプロボノ(職業上持っている専門知識やスキルを無償提供して社会貢献する活動)でこの仕事を引き受けています。

ケネス氏は実際に面談して印象的だったエピソードを語っています。
消防士の夫を亡くした女性は、二人の幼い子どもがいて、自身が末期ガンで寿命も数週間と僅かであることから、補償金の受給を早めて欲しいと言いました。そのお金で子どもの後見人を探す、ということで支払いを早めました。彼女は受け取って8週間後に亡くなってしまいました。
この話は映画ではワンカットしか出てきませんが、今現在経済的にも苦境に立たされている人たちには早急な補償が必要であるとの信念がありました。
裁判で何年も待たすわけにはいかないのです。

映画で象徴的なエピソードが2つ取り上げられています。
一つは同性愛者のパートナーの申請についてです。
現状の結果をエイミー・ライアンが泣きながら電話で告げます。こちらまで泣き崩れそうになる名演技。
この時期アメリカでは、同性婚を認める方向に向かっていましたが未だ州法はまちまちでした。

もう一つは亡くなった消防士の愛人に娘がいたと言う暴いて欲しくなかった事実です。
この女性は立派でした。自分には補償金はいらないほっといてと言ってましたが、お金の価値。愛人に産ませた娘の価値を認めました。
感動しました。

映画では最終的にトゥッチが修正がなされたとし、96%の申請がなされます。

修正とは
各々の話を直接聞き、被害者側の心情を理解する。
分配の規定を柔軟に解釈し、なるべくなら現状に即したものにする。
と理解しました。

申請しなかった人達は、航空安全管理に関し訴訟を行い和解しています。

原作のサブタイトル「The Unprecedented Effort to Compensate the Victims of 9/11 」のように「前例のない」事だったわけです。
この後についてケネス氏は、9.11基金以降はこのような大がかりな公的基金はありません。「法の平等な保護」というアメリカの政治哲学においては、特定の被害者のためにだけ、税金を使って特別な公的補償を行うべきではないという考え方が主流です。と語っています。

また、米弁護士のプロボノを調べまして大変ためになりました。仕事の価値を認識した次第です。

正に『Worth』
原題に納得。
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