えいがうるふ

帰らない日曜日のえいがうるふのレビュー・感想・評価

帰らない日曜日(2021年製作の映画)
3.6
ダブルミーニングを冠した邦題が秀逸。
イギリスのお屋敷での身分違いの秘めた恋、という設定を情感たっぷりに描き出した美しい映像はとても素敵だった。衣装やお屋敷の様子、自転車などもめっちゃ好みで全てが眼福。

でも、全てを捧げた初めての人との夢のような逢瀬を大切に慈しむジェーンに対し、ポールは自身の結婚が迫っているのに実らぬ恋に苦しむどころかひたすら優雅に微笑んでいて、手慣れているような余裕まで感じさせる振る舞いだったので、年貢の納め時を前にお気に入りのおぼこい使用人を呼び出して憂さ晴らしているという調子の良さが透けて見えてしまい、二人のラブラブな様子はなんだか醒めた目で観てしまった。
逆にコリン・ファース演じるお屋敷のご主人の方は、やけに察しよく彼女の立場を案じてあれこれ気遣ってくれていたように見えたが、もしや彼も過去に似たような相手がいたのでは・・なんて想像が頭をよぎった。

ともあれ、彼女の人生にとってはあの日にその後の道を選ぶきっかけとなる言葉が彼から贈られたことが何より重要で、本人が結果的にその経験を糧として生きることが出来たと思えるなら、他人から見てどうであろうとめでたしめでたしなのだろう。

そして今作で一番凄みのある演技をしていたのはなんと言ってもオリヴィア・コールマン!!
心ここにあらずといった陰鬱な面持ちでありながら、メデューサのようなその眼力は相変わらず。黙って目をこちらに向ける、それだけで圧倒的な負のオーラを感じさせるとてつもない存在感。終盤のヒロインに話しかけるシーンでは、そのセリフの重さと深みにこれまた息を呑んだ。圧巻。