Kachi

ちょっと思い出しただけのKachiのレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
3.8
【思い出すという名のこたえあわせ】

男女の別れが既定事実としてある恋愛モノが最近流行っているらしい。その系譜をひきコロナ禍という時代性も取り入れたのが本作ということになるのだろう。

毎年の照生の誕生日をスナップショットで切り取り、男女が別れる前に遡っていくスタイルは、なぜ二人は別れることになったのかを答え合わせするような見せ方にも思われた。
もっとも、これはありふれたことではあるが、明確な別れの理由など見つからないものである。

冒頭でコロナ禍(現在)の2人の新たな日常が描かれており、各々がふとしたきっかけで過去を思い出すような導入は与えられている。ただ、私たち観客の眼前に展開された2人の思い出は、どちらの視点から再構成されたものなのかが大事なのではないかとも思った。

2人ともがその場に居合わせているシーン(タクシーでの口論や水族館、横浜での愛の告白etc...)は、2人の記憶の中では微妙に違っているようにも思われ、「ちょっと思い出した」のであれば、どちらの記憶の再構成なのかによって、作品の印象がガラッと変わるような気もする。「思い出した」としながらも、2人のシーンはフラットに神の視点で見せているという風にも取れるかもしれないけれど。

馴れ初めをあんなに甘美な思い出に変えているのであれば、それは過去の肯定と現在の充実が窺い知れる。

コロナ禍を含めたスナップショットであったために、マスクの存在が際立つ。後世、本作を観る人は時代性を強く感じるであろう。
Kachi

Kachi