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てなもんやコネクションのおむぼのレビュー・感想・評価

てなもんやコネクション(1990年製作の映画)
4.0
山本政志監督特集脳天映画祭@下北沢トリウッドで、これにて今回フィルムからデジタルリマスターされた作品は全て見られた。

だから先に『アトランタ・ブギ』や『リムジンドライブ』を見ており、それらと同じように言葉はろくに伝わらない違う国の自由で頑固な者同士がパワフルな魂で交流して、いざって時にはもがいて生きることが描かれる極めて人間的な主題の映画である。
しかしながら、話やポストカラーのような美術など全体的には荒唐無稽な雰囲気をまとっていて、そのおかげで退屈しないで惹きつけられる。
山本政志監督の映画全てにその要素が散りばめられているが、この映画はそれがそのまま表現されている群集劇だと感じた。
次作『アトランタ・ブギ』のほうが娯楽作としてまとまっており見やすい映画ではあるが、主題に対する回答として強い力を話や画に感じるのはこちらだ。

例えば、そういうボーダレスな雰囲気を感じられるおもしろさは、この映画の舞台である香港と大阪において、広東語と関西弁の言葉のリズムや音、コテコテのお笑いの感じが似通っているところにもあると思う。
なんだか自然と底抜けに明るく見える。
それは初め30分ほどがホームドラマを象徴するような香港での家族の食事シーンから始まり、その息子と大阪の旅行ガイドの女と盗みで生計を立てているむちゃくちゃな大阪のおばはんが出てくる大阪(飛田と釜ヶ崎)→東京(浅草の花やしき)→香港のモラトリアムな珍道中で強く感じられる。

それ以降は香港の島に住む主人公一家と、やくざ者のような日本の大企業が行う地上げである。
明るいあほらしさが感じられる珍道中に比べ、地上げのほうは主人公の母がひどく落ち込み怒り諦めるシーンの時間配分が長いため、ひどく鬱屈とした世界を演出していたと思う。
そのあたりが娯楽としては鬼門なのだが、最終的には虚を突くような一家の悪ガキたちの頭脳明晰わんぱくな方法で明るく欲望の全てが満たされていた。
そして、最後のお祭りシーンは盛り上がっているのに寂しい。

最初の画が水面から(一応の)主人公である九扇が船を漕ぐところで、最後の画はその祖父さんが西川のりおのゼニはこう貯めるんや!と題された本や、ポストカラーでソープランド女神の看板を持った自由の女神像が描かれたしょーもない都会の絵が置いてある机に頭を載せてうたた寝するところというのが、この映画の話全てが俗っぽい胡蝶の夢とも捉えられるし、ゆりかごから墓場までという感じもして、諸々上手く整っていて良かった。

画で強烈なのはやっぱり釜ヶ崎の歯の少ない酒飲みのおっさんばかりが出てくるドキュメントシーンだと思う。
日本のスラム街とも言える場所だが鬱屈としたものはあまり感じられず、そこにあるのはしぶとさだった。
この映画の主題を表現する本物の画が見られることが説得力の切り札となっていたと感じた。

釜ヶ崎のあいりん労働福祉センターは2年ぐらい前に建て壊されたし、きれいな街に生まれ変わるにつれて、この映画で見られるような人は姿を消しつつある。
それは見捨てられると言い換えることもできる。
だから、もうどちらも失われた光景となっており、この主題は皮肉と化して心を刺すような感じがした。
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