サマセット7

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーのサマセット7のレビュー・感想・評価

3.8
監督はTVアニメ中心にキャリアがあるアーロン・ホーヴァスとマイケル・ジェレニックのコンビ。
主演声優は、英語版は「ガーディアンズオブギャラクシー」や「ジュラシックワールド」のクリス・プラット。吹替版は、アニメ「DEATH NOTE」「STEINS;GATE」の宮野真守。

[あらすじ]
ニューヨーク・ブルックリンで配管工を営む兄弟、マリオ(宮野真守)とルイージ(畠中佑)は、ひょんなことから謎の土管に吸い込まれる。
ルイージとはぐれたマリオがたどり着いた場所は、異世界・キノコ王国であった。
マリオは、王国を統べるピーチ姫(志田有彩)の助けを借り、ルイージと再会すべく旅に出る。
一方のルイージは、「やみのせかい」を支配する魔王クッパ(三宅健太)に捕まり囚われの身となっていた…!!!

[情報]
世界一有名なゲームキャラクターである「マリオ」を主人公として、任天堂とイルミネーションが組んで製作した、3DCGアニメーション作品。
本日は日本での公開初日である。

マリオは、1981年のアーケードゲーム「ドンキーコング」に初登場した、任天堂の看板キャラクターである。
中でも1985年のファミコンゲーム「スーパーマリオブラザーズ」は、史上空前の大ヒットとなり、社会現象となった。
同作は端的に、世界中で家庭用ゲーム機を一般家庭に普及させたゲームソフト、であった。
その後も任天堂がスーパーファミコン、64、DS、Wii、SWITCHなど家庭用ゲーム機を出すたびに、そのゲーム機を代表するゲームソフトとして任天堂がスーパーマリオシリーズ開発発売するのが定番となっている。

マリオが登場するゲームとしては、横スクロールのアクションゲームであることが多い(スーパーマリオブラザーズ、スーパーマリオワールドなど)が、3Dのアクションゲーム(スーパーマリオギャラクシー、スーパーマリオオデッセイなど)やレースゲーム(マリオカート)、その他RPG、スポーツゲーム、対戦格闘、パズルゲームなどなど、あらゆるジャンルでキャラクターが登場している。

マリオの映画化という構想は古くからあり、1993年には「スーパーマリオ/魔界王国の女神」というタイトルで実写映画化されている。
同作は一般的に失敗作とみなされている。

今作の製作には、マリオシリーズの生みの親である任天堂の宮本茂がクレジットされており、任天堂社内に映画専門チームが結成されて、アイデアの提案や脚本のブラッシュアップに関与した、とされる。

他方、アニメーションを製作したイルミネーションは、ミニオンズシリーズやSINGシリーズなどで知られる、押しも押されぬ3DCGアニメーションスタジオである。
比較的予算をかけずに高品質の3DCGアニメーションを製作することで知られている。

今作の製作費は1億ドルと言われる。
アメリカでは2023年4月5日に公開されており、4月27日時点で、世界興収は8億7000万ドルを超えるメガヒットとなっている。
この成績はゲーム原作の劇場用アニメーション作品で歴代最高である。

今作の評価は、評論家と一般客層で大きく分断している。
アメリカの著名な映画批評サイトRottenTomatoesでは評論家支持率59%に対して、一般のレビューでは支持率96%となっている。

[見どころ]
原作マリオシリーズのファン垂涎!!
ゲームのあんなシーンやこんなキャラが惜しげもなく大量投入!!
プクプク!パックンフラワー!レインボーロード!!!
原作ゲームを引用した、音楽の数々!!!!
横スクロールを模したカメラワークをはじめ、ゲームの没入感を彷彿とさせる、原作ファンに最大限配慮した各種演出!
これぞファンムービー!
3DCGアニメーション大手イルミネーションの本気!
美しいアニメーションと華麗なアクション!!!
マリオとルイージの両親や、ピーチ姫の来歴など、マリオのバックストーリーについての新たな言及も見逃せない!!

[感想]
予告編から抱いた期待を、上回りはしなかったが、不足なく満たしてくれた!という感じ。

当方、マリオシリーズの経験は、そこそこ程度。
基幹シリーズはまずまず遊んでいるが、スピンオフ作品にはほぼ触れていない。
劇中、引用がわからないキャラクターやシーンもあったが、問題なく楽しめた、と思う。

今作は、任天堂と宮本茂完全監修のもと、原作ゲームの魅力を、余さず映画化した作品である。
原作ゲームの魅力は、満喫できる。
特に、他の映画ではまず観ない、横スクロール風アクション映像は、原作ゲームの感覚を再現して、懐かしさを覚えた。

アニメーションの美しさ、アクションの素晴らしさは、さすがイルミネーション。
映画にした最大の意味は、ゲームではスペック的に難しい、最高精度のアニメーションでマリオやコング、クッパらがギュンギュンヌルヌル動くところ、であろう。
宮本茂は、マリオがついに人間になった!と語ったらしいが、今作の魅力は、「マリオが最先端の3DCGアニメーションで動く」に尽きるのかもしれない。

原作から引用された音楽の数々も、ゲームファンからすれば、最高でしかない。

では、映画作品としてはどうなのか、と言われると、批評家の低評価にも頷ける。
ストーリーは、とにかく薄味だ。
もともとマリオシリーズは、アクションに主眼があり、複雑なドラマやストーリーは、ゲームへの没入の阻害要因として、徹底的に排除されていた。
今作の基本ストーリーは、マリオが、ルイージを助けるため、仲間の助けを借りて、クッパと戦う。以上。
このストーリーからはみ出るヒネリや衝撃は特にない。
シンプルイズザベスト、とは言うものの、現行の3DCGアニメーション映画は、須くピクサー作品の初期の高品質な脚本と比較される宿命にあるのだ。
物足りなく感じるのは、当然だろう。

総じて、映画作品、というよりも、体感型のアトラクション・ムービー、という感じがしっくりくるだろうか。
アクションゲームの映画化のアプローチとしては、アリなのだろう。

今作は原作と比較して、ピーチ姫の役割をややひねっているのだが、予告編でも大々的に報じられていたため、特段の驚きはなかった。

今作が、すでにアメリカで、一般客層から広く支持を集め、大ヒットしている点は、興味深い。
幾つか原因は考えられよう。
1つは、確実に、マリオ、というキャラクターの知名度の高さにあろう。
世界中で、最も知られたキャラクターの一つであることは間違いない。
ミッキーマウスに勝るとも劣らないだろう。
老若男女に知られている故に、ファミリー層にはブッ刺さったに違いない。

もう一つは、広告宣伝の成功にもあるだろう。
通常の劇場用アニメーション作品の宣伝ルートとはまた別に、任天堂が持つ世界的なゲーム市場用巨大ネットワークを活用できた利点は、大きかったのではないか。
何しろ、任天堂が、ひとたび新作ゲームの紹介用動画をアップしたら、世界中のゲーマーが飛びついて、泣いたり笑ったりする時代だ。
普段は映画館まで行かないゲーマーたちが、劇場に家族連れで押し寄せたことは想像に難くない。

エンドクレジットが終わった最後の最後に、続編を思わせる描写がある。
今作の成功を受けて、壮大なるマリオバースが始まったとしても、驚きはない。
とはいえ、次作は配信でいいかな。

[テーマ考]
今作のテーマは、「諦めないこと」の大切さにある。
劇中、マリオは、何度も何度も困難に直面して心折れかけるが、そのためにへこたれず、戦い続ける。
典型的なのは、ピーチ姫との特訓シーンである。

このテーマは、原作ゲームに準拠している。
横スクロールアクションゲームは、トライアンドエラーの連続だ。
何度も何度も死んでは挑戦する、の繰り返し。
それでも、諦めさえしなければ、いつかは勝利に辿り着く。

こうしたテーマは、監督コンビが設定したもののようだ。
監督コンビはいずれも任天堂ゲームファンらしいが、着眼点も原作ユーザーならではだろう。

[まとめ]
任天堂の世界的人気キャラクター・マリオを主役とする、ゲーム原作映画の興収成績の記録を塗り替える、大ヒット作品。

マリオシリーズで私が一番好きな敵キャラである、ハンマーブロスは、今作では大してフューチャーされていない。
一方で、パタパタ軍団の威容には息を呑んだ。
確かに、飛べるって、リアルな世界だとめちゃくちゃ強い!
クッパ軍団の一糸乱れぬ統制は、リアルな独裁国家を思わせて、なんだか印象に残った。