うっちー

オマージュのうっちーのレビュー・感想・評価

オマージュ(2021年製作の映画)
3.8
 仕事、家庭などあらゆる面で「うまくいっていない」人には特に刺さりそうな映画。現代の韓国映画、ドラマ界で欠かす事のできない俳優、イ・ジョンウォンさんが主演で、演技巧者ならではの、力みのない自然な演技で悩める主人公、ジワンを体現している。

 最近日本でも公開作が増えてきている韓国の女性監督の映画(コロナで大作の公開が延期されることが増えたということも要因の一つであるとか)。でも実際にはやはり、機会や予算に恵まれず、悩み、燻り続けることが多いとか。ジワンもまさにその1人なようで、なおかつ監督作はヒットに恵まれず、スランプ気味だった。そんな彼女に舞い込んだとある依頼にのめり込むうちに、仕事や自分の人生について顧みることになる。

 この依頼が、60年代の女性監督のフィルム作品の無声箇所に音声をのせていくというもので、ジワンは現存する関係者や台本などを探し、行き着いた女性編集者から、当時の公開館にフィルムがあるかも、と教えられる。ゆったりした流れの中にも、困難そうなものを探し、カットされた箇所の秘密を探るミステリー要素が加わり、面白い。1960年代といえば、朝鮮戦争後、バリバリの軍事政権(朴正煕時代?)時代。あらゆることに規制や弾圧があったはずで、そんな中で女性が映画監督をするのはさぞかし大変だっただろう。その辺の詳しい事情はあまり描かれていないのがちょっと残念だが、その映画に関わった監督、俳優、編集の3人の女性の面影を追いかけることで、ジワン自身にも心境の変化が生じる、という流れ。健在だった編集者のもとを訪ねるシーンや彼女の発言で拾い出すことができた映画のフィルムをかき集めて彼女のもとに届け、バラバラになったフィルムを補修し繋ぎ合わせるシーンはとても印象的だった。
 皆老人と化した関係者との出会いがすべて感動的なわけではなく、かと言って酷い目に遭うわけでもなく、ジワンにはただ女性の映画関係者たちの思いを慮るしか術がないわけだけれど、監督が編集者に宛てた手紙に描かれた心情(思うようにならない現実に苦しみながら、それに慣れてきてしまう。そのこと自体への諦めに似た、突き放された自己嫌悪、のような?)は観ている側の心にも残り、その焦燥感を自分にも投影してしまった。その辺がいちばんグッときたところかもしれない。

 家では何もしないようだが、一応病院には付き添ってくれる夫や、無理のない普通のいい息子(タン・ジュンサンがかわいい)など、家庭的にはそんなに悪くないのでは、という感じで、ジワンがこの後何をしてゆくのかが気になった。どうせならこの映画修復プロジェクトをドキュメンタリー的に記録すればよいのに、とおせっかいにも思った。
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