Totoire

オッペンハイマーのTotoireのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
相変わらずクリストファー・ノーランは凄まじい作品を創るね。物語は原爆の父と言われるオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)の原爆製作における物事を主観的に捉えながらストーリーが進みつつ、1954年の国家安全保障公聴会でのオッペンハイマーへの聞き取りや、1959年のアメリカ原子力委員会の委員長であるルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)を起点とした連邦乗員議会に諮問される場面をモノクロで描きながらシーンを入れ替えつつ、時間軸もいったりきたりを繰り返しながら展開される。整合性の突合を頭の中で進行しながら観進めるんだけど、インセプションやTENETと同様に一回で理解しきれる構成にはなっていない。

今までもあらゆる歴史的ドキュメンタリーや文献等から政治的背景による原爆投下の必然性(ナチスの暴走を止める抑止力+戦争集結に向かわせるための行使)はこの映画でも同様に描かれていて、このロジックの真偽の信憑性は高そうだなと答え合わせができた。アメリカ側からみると正当性や正義心による意思決定の主張はありつつも、あれだけの科学者でありながら開発する前にこの兵器を一度使おうものなら世界がどうなるかの想像力が働かなかったものかはやっぱり疑問。いや、働いていたのに地獄の門を開いちゃうのは日本の真珠湾攻撃もそうなんだけど、踏み止まれないものなのか。振り返るから言えるという結論付けでは世界にとってあまりにも大き過ぎる兵器を生み出してしまった罪はやっぱり釈然としない。それを一新に受け止め切るオッペンハイマー、自身の所業に愕然とする心理描写と、英雄視する周囲の環境とのギャップを核分裂や爆発、人間が焼け死ぬシーンを織り交ぜながら表現していたのは印象に残る演出だった。その後彼は水爆開発にはずっと反対して干されてしまう。兵器による抑止力の開発と行使は世界が滅びるまで不可逆なのか、全人類に問うような偉大な作品だと感じる。
Totoire

Totoire