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怪物のkabcatのレビュー・感想・評価

怪物(2023年製作の映画)
3.8
監督も脚本家も、好きな時もあるのだがときどきあざとさを感じてしまう2人なので、この組み合わせに少々戸惑いつつ観始めた。カンヌのクィア・パルムを受賞している、ということ自体がネタばらしとなってしまっているが、タイトルにもなっている「怪物」とは何のことか、映画の中で明確にされることはなく、中心となる少年たちの口からもはっきりと述べられることはない。小学校高学年くらいの設定であるから、まだ彼らにはしっかりとした自覚はなく、芽生えの段階なのだろうからことばにしない設定はよいと思った。けれども湊の父親が「ラガーマン」であったり、母親や教師から少年たちが「男であること」を強調することばが多く口にされたりすることで、それがあからさまに伝わるようになっていて、そこに作り手のいやらしさを感じてしまった。

スマホやTikTokなどが登場しているから舞台は現代だと思われるのだが、それにしては大人たちの倫理観が古すぎやしないだろうか。「Z世代」ということばがあらわれ、この数年間ジェンダーの多様性についての認識が進むなか、少年たちの傾向に気づいたり理解を示したりする人が少なすぎる(おそらく数名の女生徒たちと後半の保利先生くらい)のも気になった。

そのほか問題に対して学校側の事なかれ主義や依里の父親の描き方などがステレオタイプに見えて、リアリティが感じられない。保利先生の扱いもひどすぎる。また同じ時間帯を3通りの視点から描いているが、誰の視点かはっきりせずあやふや(一応母親、先生、少年だとは思われるが統一感がない)に見える。

そういった制作側のまずさが随所に見えてしまうのだが、それを帳消しにするくらい子役の2人の演技がすばらしい。この点については毎度監督の子役のキャスティング力が冴えているなあと思う。
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