矢吹

オッペンハイマーの矢吹のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
それは、彼らが許されるために。
この作品は、誰が許されるために?
あの部屋の中の皺寄せは、空論だけの被害者数と、そこから生まれる悲劇を被るのは、誰だったよ。
誰も許されては行けないし、もう誰も同じ罪を背負っては行けませんから。
結局、人間がサイコロを作り出して、
人間が勝手に振っている。
そして人間が翻弄されるのだ。

慧眼と盲目を持ち合わせた、
化学を知りすぎて人間を知らない。
全てのマイナスを才能で賄う男。
Mr.オッピー。
共産党と民主党、ドイツとアメリカ、政治家と科学者、対立の狭間に引き摺り込まれていく真実と良識。
そして、どちらもありうるとか、粒と波の両方の性質を併せ持つとか、そういう矛盾みたいなものを孕むのが、量子力学であるのが、またね。
分野としては、だいぶよくわかってないけど。
それでもこの世界のルールには、
そういう道も、発見もあるんだろうが。
よくわかってなくて申し訳ないけど。
もっと勉強しますけど。

物理学の世界の論文レースみたいな、同志たちの苛烈な競争の世界。めっちゃいいな。
ドイツ、オランダ、イギリス、アメリカ、ソ連、どこにでも強敵であり仲間がいるじゃないか。
なんか、地球最強を競っている刃牙みたいな王道のかっこよさもあり、
その中から、仲間を集める展開もかっこいいと思っちゃう。
アイシールド21みたいな王道でもあるという。
この物語の向かう先を、わかっているのに。
世界の破壊者は、
戦争を終わらせるために。
プロメテウスは神から火を奪い、人に与えた。
大衆は太陽に群がり焼き尽くされ
権力は陰で暗躍する。
そして、人類はどんな兵器でも使う。
作ってしまった人の罪と、使ってしまっている人の罪について。
アメリカ。爆弾で戦争が終わった。
勝った国の喜びようも、絶対あるじゃん。
たまたま日本だった。そんなわけもない。
それで我々の罪をゼロにするのはおかしい。
当然、ニアゼロでも効かないし。
自分の罪を同情で終わらせられると?
が、もちろんこちらにも向く。
始めたのは、そもそも誰なんだってこと、誰かが途中で止められただろってこと。
もっと遥か前の戦争から始まってるよ。
日本国の、嘘の戦勝報告とか、報道の規制も1枚どころか、あわや11万枚ぐらいは噛んでるだろ。

自分の運命を選んでしまった女性の方、あのタイミング、その分子と原子が揺れてしまったことに、
化学式は、あるのでしょうか。
これもどこから始まってたのでしょうか。
結局はミクロで見ないと、話にならない。
この世で最も、
小さな世界が巻き起こした大きな問題。
でも、この、ほとんどモナド論では、この爆弾の物語は、ほっておけないはずなんだわ。これ。
それじゃ人間は変わらないでしょ。
つまりは、ちゃんと権力を、大衆がしっかりと管理して対等の立場にないとダメだ。
もっと勉強しますけど。

新型爆弾じゃない、新世界だ。
の、ドイツのおじさんが、イチオシ。
ニールス・ボーアだった。
アインシュタインを殺した男、じゃなかったっけ。
冒頭の講義の中で、化学の扉で世界の内側が見えてくるって言ってた。内側なのよね。
外にいるのは我々。
所有は強奪であるという、借り物の原理。
も繋げていいかはわからんが、この世にはすでにあるんだから、謙虚に自分の知性を点検する意味となればいいけどな。

なんか最近たまたま、ブラックホールの話から、量子力学、元祖「神はサイコロを振らない」について本で読んだり、調べたりしてて、
まんまと、オッピー。いいタイミングだった。
光やブラックホールらしき話まで、作中では割とさらっと触れられていて、いつもの読みっぱなしの浅学が、ちょうど無い知識にフィットして、絶妙に機能した。浅学最高じゃ。

そして、ちゃんとノーランの時系列、
未来のモノクロ。過去のフルカラー。
そもそも全部過去ですけどね、その辺の混沌。
こんなにもかってぐらいの美麗な、怖いもの見たさをより加速させる映像。
宇宙、原子、分子の世界に囚われた
オッペンハイマーの幻想も心地よい怖さ。

ただ、被害状況の、あの映像を流したら、作品のレートが上がっちゃうのかな、それも変な話だけど、どうせR15指定なら、使ってもって思うけど、 sexよりは教科書にも載ってた気がするけど、そうでもないっけ。
そう言う授業やっけか。
矢吹

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