不快な気持ちになることを覚悟して行ったけど、思ったよりは拒否感薄かった。
原爆の実験や投下が成功して、拍手喝采大興奮のメンバーたちが不気味に描写されていた（倫理的葛藤を抱えるオッペンハイマーはそのリアクションを分かち合うことができない）場面が象徴的。
広島長崎の被害の描写をしなかったのは、人道的葛藤の比重が大きくないからかと思っていたが（オッペンハイマーの栄光と凋落の話であり被爆地の情報入れると別の話になるからかなと）、そんなことはなくメインテーマの一つだった。
なのになんで、はっきりした視覚情報として被爆地の状況を入れなかったのかは理解に苦しむ。
映画としては完成度が高かっただけに余計。
死の灰が降り注ぐようすとか、熱線で身体が焼き飛ばされる暗示とか、アメリカ人とかヨーロッパ人には原爆被害のことだと伝わるの？ 無理じゃない？ どんだけの被害だったか具体的なイメージない人がほとんどであろう中で。
スパイク・リーが苦言を呈してくれたのは同じ有色人種として寄り添ってくれたんかなと思う。
長崎の資料館で体験談を読んだ時、「これ以上は思い出すのが辛いのでここまでにさせてください」と締めくくっている人が多くて、痛みにたえて語ってくれた人たちのおかげで今があるんだと思った。
なのでノーランお前だって勇気出してくれよ……
被害状況がピンと来なければ、なぜあそこまで罪悪感を持って葛藤したのかわからないと思うんだけど。
それすら入れられないほど、米国での原爆正当化の認識が根強いということなのか。
被害を発信した方たちも、戦後すぐは日本国内からすら誇張やプロパガンダと言われたらしいので、まして正当な行為と思ってる人たちには受け付けられないと判断したのか。
オッペンハイマーにとって、原爆開発は当初ユダヤ人としての反ナチの戦いだったものが、ドイツは開発中の1945年春に降伏。
なので使うなら日本相手にとなるが、人間に対し使うことについてのオッペンハイマーの躊躇いは置き去りにされ、反共の思惑も相まって投下そのものが目的となっていく。
彼自身は「前代未聞の破壊力を目撃して恐怖した人類が、戦争そのものから手を引く」ことを望んでいたけど、結局歴史上の新たな火種になっただけだった。
戦後はソ連との軍拡競争で開発の手はさらに恐ろしい水爆に伸びるが、核の行使を恐れて開発に反対する、という流れは明快だった。
日本に落とさないでくれともちろん思った一方で、ドイツが降伏して枢軸国唯一の残りになっても、首都の空襲で十万人死んでも、沖縄地上戦始まっても降伏しなかった日本側に「人の命をなんだと思ってんだコイツら」と思う気持ちが湧いてしまう。
ただ、投下を報じるラジオが「軍事拠点を破壊した」と言っていたのは、戦時中だからそう言うだろうけど違うだろと
なんで軍港のある呉や佐世保じゃなくて広島や長崎だったのかと言えば、比較的空襲の被害が少なかったエリアで、なるべくまっさらな場所でどのくらいの被害が出るかを見たかったからというのは描写されていない。
完成後はオッペンハイマーの手を離れた原爆が、使用については政府の意思しか反映されなかったと伝えるためにもそのへん描いて欲しかった。
序盤からずっと、「本当にこれでいいのか」「こんなものを作っていいのか」という不安や揺らぎが心象風景や音楽で描写され、たまりにたまった緊張と予感が爆発するのが万雷の拍手の場面。
技術をどう使うかを決めるのは自分たちではない、科学者は研究開発を進めるのが務めだ的なことも言っていたけど、本当はそうじゃないのは本人が一番わかっていたはずだ。
自分自身も大義のためにメンバーになったわけだし、作ったものが何をもたらすか一番理解しているんだから。
この技術を完成させるのがナチスだったらマズいという背景はありつつ、当初の大義がなくなったあとも、すべてが政治的に動く戦時下ではもう止めることはできなくなっていた。
事件は現場で起きてるんだけど、事件を起こすのは会議室の人間という……
情報量多くて3時間があっという間だった。
難解と言われるのは序盤でとくに時系列行ったり来たりするからかな。
終戦が見えてきて、課題が反ナチ・反枢軸国から反共へ移行したという前提知識があれば何とかなるような。
キリアン・マーフィのオランダ語を聞くという嬉しい驚き。
化学履修者としてはフリッツ・ハーバーを思い出した。
ハーバーは毒ガス開発に良心の呵責を覚えた記録がないけど、ハーバーボッシュ法で人類の歴史を変えた（アンモニアは爆薬と肥料両方の原料になる）ところとか。
オッペンハイマーが戦後来日してたと知ったので（広島長崎は行かず）、もう少し調べてみたい。
爆弾は善人も悪人も無差別に殺す 物理学300年の集大成が大量破壊兵器なのか
分からない そんな兵器を僕らが預かっていいか だが、ナチスではいけない やるしかないんだ
They won't fear it until they understand it, and they won't understand it until they've used it.
You gave them the power to destroy themselves. The world isn’t prepared for it.
I believe we did.
