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イニシェリン島の精霊のKentaCのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.1
1923年のアイルランドの孤島・イニシェリン島を舞台に、ある日突然親友のコルムに絶縁を突きつけられたパードリックが、コルムともう一度友人関係に戻るための行動を試みる物語。

見ようによっては「偏屈な大人による大人げないケンカ」でありながら、
その実、1人の男の中年期危機を発端にした、2人の男の「生まれ直しの物語」が痛みと苦しみを伴って描かれている秀逸な作品でした。

退屈な島で今まで通り漫然と生きていくことに行き詰まった男と、
自らの人生に何ら違和感を感じることなく生きている男。
自分の人生の意味に思い悩み、行き詰まった結果、最も大事な親友を切り離す(文字通り「手を切る」)という「覚悟」に至った男と、
その「覚悟」を一切汲み取ることができず変化を受け入れられない男。
…そんな2人の男の対比に加えて、妹、警官、その息子といった島に住む人たちを通して浮き彫りになる、男たちの弱さと脆さ、
そしてそう生きざるを得ないある種の哀しみが作品全体を包む緊張感や陰鬱さとともに存分に伝わってきました。

パードリックを演じたコリン・ファレルの後半の表情の変化も見どころで、
誰しもに訪れるであろう「人生の分岐点」を観ている側にも強く感じさせてくれる、流石の演技力だなと思わせてくれます。


『ウーマン・トーキング 私たちの選択』ともまた違った角度で「男性の弱さ」を炙り出すとともに、人生で避けては通れぬ「中年期危機」の危機たる所以を鮮烈に描き出した本作。
人、そして人生について考えるにあたって、とても有益な映画ではないでしょうか。
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