おーみ

ラーゲリより愛を込めてのおーみのレビュー・感想・評価

ラーゲリより愛を込めて(2022年製作の映画)
3.5
シベリア抑留組で生きて帰ってきた祖父を持つ身からすると…

今作が、タイトル・テーマともに話題になった時点で実家では騒ぎになっていて。
というのも、死んだ祖父はシベリア抑留組の1人で命からがらまさにラーゲリから帰ってきた1人。僕が中学生のときに死んだので、もう十数年前になるけど、子供の頃、お盆や正月にじいちゃん家に集まった宴会のラストは必ず、酔っ払ったじいちゃんによる満州にいた時とシベリアから帰る時の武勇伝でした。

当時は、「はいはい、また始まったよ」って感じで聞いてたんだけど、小学校高学年くらいの時に戦争を知る人にインタビューしましょう、っていう課題があって、その時初めてシラフのじいちゃんに戦争について聞いたことがありました。
話を聞いたのは10年以上前だけど、何が辛かった?って聞いたら、シベリア抑留の時の話をしてくれた。その話は今まで聞いてたじいちゃんの武勇伝よりももっと生々しい、リアルな話。
シベリアの冬はとてつもなく寒くって、とにかく次から次と人が死んでいく。最初の方は死体の処理もしてたけど、だんだん追いつかなくなって、最後の方は廊下に死体を重ねてた、とか。

そういうリアルな話を聞いていたので、今回シベリア抑留がテーマの映画と聞いたときはどんな作品になるのかと結構期待がありました。

結論からいうと、『山本幡男物語』としてはとても良くできていたと思います。
しかし、シベリア抑留の悲惨さや、戦争というものについて考えるという意味では、個人的にはもっと伝えるべきことがあるんじゃないかと思う作品でした。
正直、あんまり前情報なく見たので。

以下、ネタバレ含みます。






山本幡男物語としてよくできていた、というのは文字通りで、戦時中に、あのラーゲリという過酷な場所で、希望を捨てずに生きた山本幡男という人間はほんとうに素晴らしく、彼によって心を動かされた多くの人が彼の遺書を記憶し、それを家族に伝えるというストーリー自体は本当に感動的だと思います。

ただ、日本の戦争映画はそれでいいのだろうか?と、今作をみて感じてしまいました。
それは身内にリアルを教えてくれる人がいたからかもしれないですが、今作をみて、シベリア抑留を知らない世代は果たして、本当にシベリア抑留を悲惨なものだと理解できたでしょうか?
シベリア抑留に関する映画が日本に沢山あって、そのうちの一つにこの『山本幡男物語』があるのならばまだ良いけれども、正直近代に入ってからシベリア抑留をテーマにした映画はほとんど無く、日本人にとってもシベリア抑留って何なのかよくわかってない。
そんな中で二宮和也を主演において宣伝もたくさんした、多くの人が見ることになる作品として、テーマの扱い方はこれで良かったのか?と少し疑問が残ってしまいました。
山本幡男は抑留組の中でもかなり特殊な人間(ロシア語が堪能で通訳もでき、満州鉄道で働いていたことからスパイの罪に掛けられたかなり特殊な人)であり、シベリア抑留の普遍的なテーマを扱えているかといわれると、そうじゃない気がします。(私の主観です。勉強不足なところがあったらすみません。)

シベリア抑留に限らず、最近の日本の戦争映画・特番は、なんかかこう、キレイゴトで終わらせたがる感じが少し違和感で。
日本が70年以上戦争をしていなくて、リアリティから遠ざかっている、という事実は喜ばしいことなのだけど…もっと当時のリアリティを伝えることで、反戦を訴える作品があってもいいんじゃないのかなと思います。

例えば今作でも桐谷健太演じる軍曹が上官の命令で捕虜を殺害するシーン。あれは凄く良くて。僕ら戦争を経験していない世代って、戦争において人を1人殺すっていうことの意味を映画で見てもあまり深く考えてないと思うんです。
でも、敵兵だろうと1人の人間であるのは変わりなくって、当時の人だって1人の人間を殺めることにものすごく葛藤をしていたはずです。桐谷健太が葛藤していたように。
うちのじいちゃんもソ連兵から逃げ出した話は武勇伝のように語っていたけど、敵を殺した話は聞いても一切しようとしませんでした。

戦争って悲惨なんだ、同じ過ちを繰り返してはいけない、そういうことを伝えるには、キレイゴトではなくって、もっとリアルを伝えないといけないと思っていて、今作にはそういうリアリティを結構求めていたので、その点は残念でした。

とはいえ、冒頭でも言っているように、一人の男山本幡男の人間性や、彼が周りの人間に与えた影響、彼の家族の話、こんな素敵な日本人がいたんだという事実は後世にも伝えるべき話ではあると思います。そんなこんなで間を取って3.5です。

個人的には中島健人がハマり役で驚きました。あとは桐谷健太は元々俳優として好きじゃなくて、今作はいいところもあったけど、やっぱりウザさもあって…もっと他の役者でも良かったん所ないかな…って思いました。

二宮和也は最初えらく太ってて、ラーゲリでそんな太ってるやついるわけねえだろって思ったんすけど、まあ後半の病死寸前の対比ためだったのかな、と。でも最初っから痩せた役作りで、死に際さらにガリガリになってたら伝説になってたと思うなあ。

松坂桃李と安田顕は言わずもがないい役者でした。
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