Masato

デューン 砂の惑星PART2のMasatoのレビュー・感想・評価

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)
4.6

作家性の強いドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とブロックバスタープロダクションのレジェンダリーピクチャーズのタッグ作品デューン3部作の2作目。海外では超絶賛で現時点で歴代10位の評価。

前作に引き続き、ハリウッドらしいリッチな超大作感とドゥニ監督のアート性が唯一無二の映像体験を生み出していた。作家主義はインディペンデント、商業の超大作は娯楽に振り切ったブロックバスターと大きく棲み分けがなされた昨今の映画業界で、かつての超大作でありながら作家主義的な作品が見れることの贅沢さはこの上ない。

映像のインパクトとしては2作目のため薄いが、IMAXレーザーGTの1.43:1画角で見たときの感情をかき乱され圧倒される感覚は改めて感じることができた。ここまでのスペクタクル、そして建造物や砂漠の映像美をどうやって実現させたのだろうか。完全に架空の世界でVFXもふんだんに使われているが、作り物感が一切ない美術の凄まじさ、ロケーションの素晴らしさ、そして作り込みに余念のない世界観作りが実在感を生み出していた。毎カット構図がよく考えられていて凄まじい。

来年のアカデミー賞で技術賞は総ナメするだろう。実写みたいな過去最高レベルのVFXクオリティやばい。 ハンス・ジマーの劇伴も相変わらず気合はいってて音圧が半端じゃない。とにかく音がすごすぎる。こんな体験して良いのだろうか…否が応でも評価せざるを得ない。

今回は一家の滅亡まで追いやったハルコンネンに対して復讐を果たそうとする物語なので、前作よりもスペクタクルなシーンが増えていて映像的にも数段リッチに。序章でまだ映像的な盛り上がりが少なかった前作に比べると、盛り上がるシーンが何度もあり、クライマックスも見事な迫力。戦争映画。前作は微妙だったと思う人も今作は満足できるかもしれない。


ストーリーも皇帝やハルコンネン、ベネゲセリットが銀河を支配しようとする思惑が描かれ、より大局的な側面が大きく出てきた。この銀河ががものすごく現実世界に即した世界観であることが段々と明らかになってきて考えさせられるところも多かった。

前作でも、アラキスがイスラム教圏の中東諸国そのもので、アトレイデス家やハルコンネンらが石油(スパイス)を狙う西洋諸国、いわばキリスト教の白人国家である構図があったが、今作でより深く描かれている。もうほぼアラビアのロレンス。神話的でありリアルな戦記的な物語のなかで、信仰がどう政治的に利用されていくかをドライに描いていくのが印象的だ。史実に肉薄した寓話。ファンタジーではありながらも、感覚は政治的な歴史映画に近い。

ポールは私は救世主ではない、みんなと等しく生きたい、崇拝されたくないと思う感情と、予言どおりに事が進み、未来予知ができてしまい、宗教上の救世主としての宿命を背負うことになるジレンマに陥る。結局は戦争に勝つために救世主という信仰を利用して自身を神格化してしまう。チャニの同化するよりも神になることを選んでしまったポールへの失念。彼女のの存在はポールの良心の象徴ということなのだろう。

そして、救世主の存在が確かなものへと変わっていき、フレメンの信じる神話がまさに現実のものとなろうとしている反面、宗教が野望を叶えるための政治的支配の道具として使われている信仰に対する虚無感も描かれていく。

ポールが主人公らしく救世主になっていくということに対してカタルシスが無く、逆にジリジリと不安が募っていく展開になっているのが良かった。世界を救うという名のもとに活躍してきたこれまでの映画の救世主たちに対するアンチテーゼ。救世主として権力が集中してしまうとどうなるのか。白人国家が現地の民族を使い戦争をしていくといういつぞやの英国人将校もやっていた、現実にもおきたグロテスクな光景がまさに起きようとしている。劇中ではまだ語られていないが、恐らく来てしまうであろう災厄に恐怖を覚える。

この手の神話的な映画だと、物語上、主人公を選ばれた人間だと印象付けるために出てくる宗教は崇高なものとして描かれがちだが、本作は果たして人を崇めるということはどういうことなのか、宗教とは一体なんのための存在しているのかというのを政治的な側面から揺さぶりをかけているのは面白かった。超自然的なロマンではなく、生々しくて残酷。

今現実に、長らく虐げられてきた民族が国家を持ち強国となり支配できる立場になったら、宗教に深く結びついた極右の政党が支持されて、虐殺を強行しているということを考えると、力を持ち始めていくフレメンの民にも不安感を覚える。フレメンとポールの未来を憂うチャニの不安と覚悟が入り混じったラストカットは見事。宗教、信仰は往々にして政治に利用される…そのいたたまれなさ。

フレメンの民が最初は民主的でそれぞれがそれぞれである「個」で美しかったのに、救世主信仰が強くなっていくごとに救世主とその他信者というような構図でスティルガー含めて個が失われていく様がとても怖かった。本作はイデオロギーの強さと怖さ、危険性を描いてもいた。


ネタバレ
妹役の人、良く見ていてください。あなたも知っている人です。
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