犬たろ

デューン 砂の惑星PART2の犬たろのネタバレレビュー・内容・結末

デューン 砂の惑星PART2(2024年製作の映画)
4.9

このレビューはネタバレを含みます

ラストカット、砂虫を誘き寄せながら口を一文字に結ぶチャニ(ゼンデイヤ)の奥ゆかしい眼差しが、今作の全てを物語ると言っても過言ではない。

その瞳に宿るは、愛しさ、歯痒さ、憎たらしさ、そして微かな誇らしさが混沌を極める。

支配者に君臨しようとする漢へ向けて思慕を寄せる女として意地があったろう。嫁姑の間柄というのは厄介であるのは、いつの世も変わらず。母子ですら、いや母子だからこそ知り得ない両者の思惑を密かに知るは、伴侶としての誇りか。従って、思慕の念を抱く乙女は、愛しさと切なさと心強さで胸が張り裂けんばかりの板挟みに遭う。その痛み忘るまじ。

迷える民と共に闘う女戦士として意地があったろう。思慕を寄せる漢は民から“救世主”と祭り上げられ、ふと見渡せば平伏す者ばかり。健気で謙虚であった彼の本質とは程遠い姿を進歩と捉えるは、単なる盲目に過ぎず。砂嵐に覆われて霞んでいく思慕の念。はたまた他でもない重たい指輪に心が囚われ、力を誇示する彼の驕り高ぶる振る舞い。それは断じて許すまじ。

権力に物を言わす横暴な漢が支配する世界線、悉く嫌気が差す。出世だけが漢の本懐だとするならば、ポール(ティモシー・シャラメ)の失脚もそう遠くはない気がするのは私だけだろうか。

思慕を寄せる乙女が落とす嬉し涙。それこそが、砂の惑星を潤す唯一の治癒薬であると、私は信じて疑わず。

チャニが相好を崩す。それは、欲望にまみれた砂嵐を晴らす時の証し。是即ち“希望”であり、“楽園”である。

p.s.

何度でも言う。ラストカットの数秒間、ゼンデイヤの演技を見届ければ、凡そ三時間の上映時間を耐え抜いたご褒美だと言わんばかりの複雑さを極める素晴らしさがあり、チケット代の元は取れたと思えば、ゼンデイヤ演じるチャニの行く末に思いを馳せたくてしょうがなくなった。
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