犬たろ

ネクスト・ゴール・ウィンズの犬たろのネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

マイケル・ファスベンダーが笑っている。それだけでぐっとくるものがある。裏切ったり、はたまた裏切られたり、孤独で報われない、哀れな役を演じることが多いマイケル・ファスベンダーが、多くの人から歓迎され、諸手を挙げて祝福されている。それだけで鼻の奥がつんとする。

楽しみながら役を演じているマイケル・ファスベンダーを見届けることができて、ささやかな幸せを感じる──。



Jリーグ2024シーズンも開幕したタイミングでの今作公開に、心を躍らせながら劇場に足を運びましたが、想像していた以上に期待を上回る、学びの多いひとときになりました。

ワールドカップ予選史上最悪の大敗を喫した米領サモア代表チームの生き様を目の当たりにして、試合で負けることは悪しきことの最たるものではないと思い知りました。

会長は言います。

「負けよう。一人ではなく、みんなで負けよう」

その言葉を聞いた瞬間、思わずはっとしました。負けること以上に戦わないことが惨めであり、一人で争うのではなく皆で力を合わせる、それが何より大事なのだと彼らは示します。

0対31というスコアで負けた彼らが取り組むサッカーは、全く以て見るに値しないものだと決めつけていた自分を、今では心から反省しています。

魅力的なサッカーのやり方をただ知らないだけであって、チームのためにプレイしたい、ゴールを決めたい、勝ちたい気持ちは、全選手が胸に秘めていました。

練習に取り組む姿勢からそれは感じられます。

何処の馬の骨とも知れない白人監督が突如現れて、怒鳴り散らすしか能がないことに怪訝な面持ちでありながらも、監督の指示には従順になり、ひたむきに精を出す選手たちから学ぶことがないとしたなら、それはそう感じる己の見る目の無さを物語るとさえ思うのです。

一所懸命に汗をかき、努力を努力と思わずに楽しみながら練習に励む選手の中には、光るものを持ち合わせている者もいたり、勝利の可能性が0でないかぎり挑戦する価値は多いにあるんだと、膝を打ちます。

努力は必ずしも報われるわけではありません。しかし、だからといって努力を惜しむようであれば、勝利は疎か、何も掴み獲ることはできません。

幸せは向こうからやってくるのではありません。勝利の女神が微笑むのは、ひたむきに努力する者のみに与えられるものであるのです。

90分と少し。覚悟を決めて、仲間を信じ、共に戦う。その先には、見たことのない景色が広がっている。まだ見ぬ世界に近づくために、一歩また一歩と、小さくてもコツコツと歩みを進めていけば、必ずそこにたどり着ける。

努力を努力と思わないことを、ただひたむきに取り組み楽しむ。

絶対に負けられない戦いがそこにはある。

さあ行こうぜ、どこまでも。走り出せ、走り出せ。輝け、俺たちの誇り──。

p.s.

我が故郷、広島の街中にサッカー専用スタジアムができました。

『エディオンピースウイング広島』

2.23(金)開幕戦、広島対浦和の一戦を現地で観戦した結果、語彙力が完全にぶっ飛ぶほどの感動があり、ここに至るまでたくさんの人たちが尽力して出来上がったスタジアムは、文字どおり最高でした。

映画解説者の水野晴郎さんの言葉をお借りすれば…

いやぁ、サッカーって本当にいいもんですね!
犬たろ

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