ヒノモト

ウーマン・トーキング 私たちの選択のヒノモトのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

俳優としても有名なサラ・ポーリー脚本監督による作品。

ボリビアのメノナイト(18世紀の生活様式を重んじる保守的なプロテスタント)が住むコロニーで実際に起きた連続レイプ事件をベースに書かれた小説を映画化した作品で、犯人の保釈のためにコロニーの男性たちが出払っている2日間の間に、残された女性たちの代表でその処遇を話し合うというお話。

小説は未見ですが、映画を観る前後に、事件の背景と今作の主題となるキリスト教における「赦し(ゆるし)」について、ニュアンスをつかむことができたので、ある程度消化できたことで、映画としての満足感は高かったです。

映画序盤で、この犯罪者に対しての投票で「赦す」「この地に留まり、男たちと戦う」「この場を去る」の3択うち、戦うか去るを選んだ人が多かったにも関わらず、その後の話し合いで、「赦す」ことにとらわれ始めるところに、犯罪を罰するという観点の上に、宗教原理として、他者の罪を赦すというアイデンティティーを放棄するのかの前提が立ちはだかる。

もともと平和主義的な思想のメノナイトコロニーにおいて、男性による性的暴力が信念に反しており、男性自身が反省、悔い改める主旨を示さず、赦しを与えるかどうかを被害者として、人権として、主体性のなかったを女性側に委ねられることへの不公平さをどう解決していくかについて、話し合っていく時間が映画のほとんどのを占めています。

今作で良かったのは、女性だけの意見に留まらず、書記の役割としての男性教師の意見としての男児たちの処遇や、レイプによって大人と話せなくなったトランス男性の存在もあり、被害者という立場を越えて、コロニー全体としての未来を見据えた上での話し合い、平和的な解決への道筋を辿る展開があり、実際の事件をなぞるだけの物語になっていないのは、映画的に美しかったです。

宗教観の難しさはあるものの、多角的な視点で被害者と加害者にどう向き合うかについて、罰するとか対立するという前提の考え方から、1歩ひいて、アイデンティティーに基づいて立ち返ることが、本当の意味で女性としての自立の確立につながるという理想の形を見せているようで、研ぎ澄まされた表現になっていて、複雑ながら男性が見ても腑に落ちる物語になっていると感じました。
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