ニャーすけ

BANANA FISHのニャーすけのレビュー・感想・評価

BANANA FISH(2018年製作のアニメ)
4.0
血生臭いクライムサスペンスと耽美的なブロマンスの組み合わせと言えば、個人的にパッと思いつくのは梶本レイカの『コオリオニ』だが、本作はその精神的な原典である吉田秋生の代表作が原作。

本作の主人公は、一見女と見紛うほど容姿端麗でありながら、冷酷無比な暴力でもってストリートギャングを牛耳るアッシュ・リンクスという17歳の少年。彼の破滅的な暴力衝動は、過去にコルシカン・マフィアの大ボス子飼いの男娼として、幼少期からヤクザや政治家相手に売春を強いられてきたことによるPTSDが原因なのだが、とにかくまぁこいつが変態どもにモテることモテること。「バナナフィッシュ」という謎のマクガフィンを巡る物語は、最終的にはチャイニーズ・マフィアやアメリカ政府をも巻き込んだ巨大な国家犯罪が暴かれていくのだが、敵のおっさんたちが皆一様にアッシュを殺したがり屈服させたがるのは、自分の悪計の妨げになるからというよりも、実はみんな本当はアッシュに欲情してて(実際彼が強姦されるシーンも多い)、単に少年レイプやSMプレイのノリで襲ってくるように見えてくるのが本当にキモい。(所謂「はい出た〜、小学生が好きな子虐めるやつ〜」)

アッシュ大好きと言えば、華僑最大の犯罪組織「李家」の末弟である李月龍。アッシュがどこの馬の骨とも知れない日本人(奥村英二。本作のもうひとりの主人公)にほの字なのがどうにも我慢できなくて、意味もなく刺客を送りまくるメンヘラストーカーっぷりは本作でも屈服の良キャラ。ただ、実は彼も子供時代の凄惨な体験のために、暴力にしか生きる目的を見出せないという不幸な境遇にあり、そんな「アッシュの鏡像」とも言える彼がアッシュに異常な執着を見せるのは仕方がないと同情も誘われる。同じ地獄を味わって来たからこそ、アッシュの「抜け駆け」を決して許すことのできなかった彼の顛末には、少しだけ目頭が熱くなった。

物語全体の結末に関しては、こういう話なら当然そう帰結せざるを得ないよねというもので事前にある程度覚悟はしていたが、それでもやはりどうしようもない虚無感に襲われた。しかし同時に、それは「彼」が心のどこかでそう望んでいた引き際でもあったように思えてならず、事実、彼の表情は劇中で最も穏やかなもので、「自分を想ってくれる存在がいること」のささやかな、そしてかけがえのない幸福と救済には胸を深く抉られた。BL要素に関係なく、男も女も全人類必見のアニメだと思う。(あとたぶん原作は全巻買う)
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