ニャーすけ

宇宙よりも遠い場所のニャーすけのネタバレレビュー・内容・結末

宇宙よりも遠い場所(2018年製作のアニメ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

まずはとにかく第1話の完成度が高すぎる。
何事にも消極的な自分を変えたいと思いつつも、なかなかその勇気を出せずにだらだらと高2にまでなってしまった主人公・玉木マリ(きまり)と、民間南極観測隊員だった母が観測中のブリザードで行方不明になってしまったため、自身も南極へ母を探しに行くことを渇望する同級生の小淵沢報瀬(しらせ)。この2人が互いに影響を与え合い、きまりが人生を変えるための一歩を踏み出すまでがたった20分強に完璧にまとめられているのが驚異的。これだけでも全然短編アニメとして成立している。

報瀬のキャラクターも本当に素晴らしい。
普通に考えたら確実に死んでいるはずの母を探しに南極へ行くという、現実的とは言い難い計画を彼女の周囲の人間は嘲笑するが、こういう側から見るとまったく理解に苦しむ強迫観念のような、それでいて切実な想いに人生を捧げている人間の物語にはやっぱり強く心惹かれる。
ルックスは長身・色白・黒髪ロングという典型的な美少女で、最終回直前の第12話での「母との邂逅」には完全に泣かされたが、実はメインキャラの中では最も変人かつポンコツというギャップもかなり魅力的で何度も笑わされた。

個人的に最も感銘を受けたエピソードは第11話〈ドラム缶でぶっ飛ばせ!〉。
この回の主役は、高校の陸上部で受けた虐めに近い理不尽な経験が原因で人間不信になり、学校を辞めてフリーターをしている三宅日向(ひなた)。ついに南極に到着した彼女は、テレビ番組の企画の一環で、高校時代の陸上部の同級生から「友人として」ビデオメッセージを受け取るのだが、そのあまりの虫の良さに動揺し、独り怒りを爆発させてしまう。
その様子を偶然目撃した報瀬が、日向の心に寄り添っていく過程が本当に美しい。本来憎むべき同級生たちを「許したほうがいいのかな」と悩む日向の戸惑いを一蹴するように、報瀬が日向の本心を代弁してその同級生たちを怒鳴りつける際の言葉はとても痛快だし、その裏にある日向への全肯定の優しさと友情には心震えた。そういえば第6話も感動的だったし、作劇におけるこの2人の相性の良さは異常。

自分は「加害者/被害者」の関係性を描いた創作物が割と好きなのだが、とかく被害者の「赦し」を称揚する無責任な作品が多い中、ここまで堂々と加害者への免罪を否定し、徹底して被害者の側に立った表現は珍しく、これこそまさに自分が観たかったもの。例えば『映画 聲の形』で優しく天使のようだった西宮さんも、手話でこう言うシーンがあれば良かったと思うーーざけんなよ、と。
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